<安楽死実行命令>の伝達員

@xxx_xxx_xxx_xxx

下請けはかく笑いき

 機能しないセーフティーネットに向けられていた怨嗟の声が政府に『死ぬ権利』を認めさせた。

 どんな健康体だろうが望めば死を得られる。文字にすればたったそれだけの、えらく長い間認められなかった権利だ。


 経緯やら何やらを簡単に説明しとこう。

 『簡単かつ確実に死ぬ方法』を分解していくと、『無辜の市民を虐殺――できずとも数を傷つける』ことに落ち着く。それをやっとこさお偉いさんが理解したからだ。

 そして傷つけ易い無辜の市民となれば自然と女子供に落ち着く。何故って男を狙って取り押さえられでもしてみろよ。未遂で終わるだけだろ。それじゃ合法的に、確実に死ねない。

 ガチの狂人によるものを除けば、凶悪犯罪の理由が『それ』に集約される。

 首に縄を巻こうが。窓を気張って目張りしようが。どんな高所から飛ぼうが。奇跡ってものは望まれてもいないのに起きちまう。

 で、根負け制定と。色々あったんだろうな? ははは!


 そんで死にたい人間は『安楽施設』に行く。正式名称なんて誰も覚えてねえだろうな。俺も覚えてねえ。

 データ収集のために『死にたい理由』を書いて、そいつの死刑、じゃねえ、安楽死を実行する人間が選ばれて、めでたく死亡! ってわけだな。

 傑作なのがココな。『安楽死を実行する人間が選ばれる』。自助、共助、公助ってもんを掲げた以上、自分で死ねない人間を周りが助けねーといけねんだわ。


 パワハラ、モラハラ、虐待、イジメみてーなテンプレはもちろん金銭的な理由……例えば『親類縁者に見捨てられた』でも『生活保護を受けられなかった』でも良い。死ぬのは権利だ。じゃあなぜ死ぬかも自由だぁな。

 ここで『死にたい理由』が輝く。『お前はこいつが死ぬ原因だから責任を取れ』っつーわけで役所が必死こいて『実行者』を探す。

 生活保護を蹴られたんなら蹴った役所の担当が、そうじゃなきゃ戸籍のある役所が。その辺も自業自得に因果応報、まあ罪のない……ないのかは知らんが役所の人間は大変だな。

 面白いのは本気で必死だっつーとこ。見つからねぇと自分たちに回って来るからな。はっはっは!


 逆恨みがどうとか当初はだいぶ言われてたな。役所も有名人だなんだと無茶苦茶なことを書かれた場合は流石に無視する。つーか役所とあとは警察から辿れるぶんしか辿れねぇし。

 実行者は伏せられたまま、複数人居ればロシアンルーレット。志願者は絶対に死ぬ。墓は専用の共同墓地だ。

 もちろん問題が解決することも考えて数日の猶予はある。馬鹿やろうとしてる奴が正気に戻るか、何も知れずに不確かな逆恨みで死ぬのも良しとするかは神のみぞ知るってことだ。


 ちなみに『命令』を拒否れば犯罪者まっしぐらだからな。気ぃつけろよ。

 まあ他人の死ぬ理由になるような奴なんざそんなもんだろ?




 で、俺は『そんなもん』に命令をお届けする立場。

 ■■ ■■さん。あんたのお子さんが死をお望みだってよ。


 良かったな、身内から犯罪者を出さずに済むぜ。

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