第42話 反省会?
「と、こんな感じにまとめたけどよかったかな?」
神が消えた後、俺は皆を振り返っていった。
「いや、いいんだ。皆が満足していようが不満であろうとこれで終わってしまったんだ。神は去った。いや、まぁ残っていると言えば残っているが」
俺の視線はキーンに向けられていた。
キーンはいつの間にか元通り=球に乗っていた。
「わたーしはぁ、神ではぁありませんよー。人となったのぉですー」
「ちょっとしゃべり方が変わってないか?」プレヤが言う。「大した違いじゃないが」
「皆もいろいろと思うところはあると思うが、これで納得してもらいたい」
俺の言葉にアズガは嬉しそうにうなずいた。未だにオリビエを抱きしめしたままだ。オリビエは少しほおを赤らめている。
「私は完全にバーソンの結論に大賛成だ」
「そりゃそうだろうよ」プレヤが呆れたように言う。「その様子じゃな?」
アズガはそう言われて腕の中にオリビエがいることにやっと気づいたようだった。「こ、これは失礼……」
「いいのです。このままで」オリビエはこれまでのように少し平坦だけれど、少しの感情をうかがわせる口調になっていた。
「私は……あなたに謝罪しなければならないわ」
ファミンが思い詰めたようにいった。
「あなたを危険にさらすことで神への攻撃の糸口を得ようとした。目的はともかく、決して許されることだと思っているわけではないの」
「あなたは普通の人生を歩めばいいんですよ。そうだろう、バーソン」プレヤが言う。「よかれ悪しかれあなたの人生はダーワル神に振り回されたわけだ。それは取り戻して欲しいというのがこやつの考えですよ」
「しかし」
「そこまで言いつのるならメイドなり奴隷なり何なり、バーソンの世話でもやけばいいですよ」プレヤが半ばからかうようにいった。「こいつは独り身ですよ」
「お前もだろうが」俺は反論した。
「俺は必要ならいくらでも恋人でも、愛人でも、従僕でも手に入るんだ。むしろ王都では正体を隠さないとそういったのから逃れられない。機会の欠片もないお前さんと比べないでいただきたいものだな」プレヤは鼻を高くしていった。
「わかりました」ファミンがいった。「バーソンの世話係になります。いかなる命令でも従いますよ」
「だからそういうんじゃないって」俺はいった。
「いいじゃないか。少なくともしばらくは監視下に置くのがお前の責任でもあるだろう。ファミンはいろいろやらかしている。無罪放免とはいくまいよ」
プレヤの正論に俺は言葉を失った。
「実際にはファミンの存在を知る者はほとんどないんだろう。だが俺たちは知っているし、当人ももちろん理解している。このまま何もなかったようにすぐに振る舞えるとは言えないだろうよ」
「情状酌量の余地はある」
「確かにな。だがそれを当人が一番許さないんじゃないか? このまま自殺でもされても困るだろう?」
そこまで言われては俺も異議を唱えられない。
「わかった。わかりました」
「わたーしはぁ、自由にー生きますよぉ。行きますよぉ」キーンが言う。「それではーまたぁ会いましょうー」
ダーワル神の禁固刑と同時にダーワル神殿はいかなる力も失った。その僧侶がかすり傷さえも癒やせないのではさすがに神官も信者もほとんど残らない。享楽的な教えであったのでそれを利用してきた商売人が僅かに残っただけだった。
神殿の力が一気に失われたことで、公爵バークメは二つ目のよりどころも失った。もとより意志の弱いところもあったので、その隙を逃さなかった国王によって反逆罪で逮捕された。公爵宅の地下には大量の宝石などが隠されており、それらが王都周辺で襲撃された隊商らのものであることはすぐに明らかになった。
これによって不満分子の向く向きも反転し、王家は命を長らえた。反乱事態が生じないで済んだので国力の低下も最小限で済んだ。もちろん無傷と言えないが、この先も何とかやっていける可能性はある。
驚いたことにアズガがオリビエの力を借りて、勢力を失った神殿を回収した。そして新たに「ヤーテーバー神」を芸術の神として奉る宗教を起こした。誰にも知られていないが実体としてはキーンを奉ったと言うことになる。
まさか実直一直線のようなアズガが芸術などと言い始めるとは誰も思わなかった。
だが剣をもたせれば王都でもトップ3に入りつつ、筆をもたせれば絵画界の新星とまで呼ばれているのだ。人は無限の可能性を秘めているということだろう。
若くして文武両道かつ法王(とは名乗っていないが明らかにその立場にある)でもあるアズガには多くの女性の影があったが、オリビエが毅然と昔の無感情な冷淡な眼差しでそれらを払いのけていた。アズガもオリビエ一筋だ。
プレヤはそれに何を触発されたのか、王都に留まってサロンをひらいていた。上流層を中心に定期的に集まっては演奏を披露している。宗教色のない一大勢力を目指しているらしい。だがそのやり方では広く信者を集める神殿と比べものになるはずもなかった。
だがときたまプレヤをキーンが手伝って、プレヤのサロンを宣伝していることがある。キーン=ヤーテーバー神であることを考えるとたいへん複雑なものがある。これをマッチポンプというのではないだろうか……。
そして俺は……。
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