第41話 褒美
「バーソン、そなたに褒賞を与える用意がある。そなたには理解できると思うが、我はいわばデウス・エクス・マキナのようなものである。これですべては解決したと考えるがよいだろう。
「だがこのデウス・エクス・マキナの登場はバーソンのジャーナリズムあってのことぞ。その点は誇るがよいであろう」
翁はいった。
俺はおもわず天を仰いだ。
この世界へ転生して長いようでまだ大して経過していない。だがその間にいろいろなことがあった。プレヤは地球でもいなかった親友だと思う。まだ知り合って日は短いがアズガも。
オリビエはやはりロボット的な存在であったようだが、徐々に馴染んでいた。
キーンだっておかしな存在だったがまさか神だったとは思わなかった。それも配信する神とはずいぶんと俗っぽい。
ファミンのことはオリビエのマスターとしてしかほぼ知らなかったが、その人生は決して楽なものではなかっただろうし、その行為も地上を守ろうということであった。そこは斟酌されるべきだろう。結果として俺自身も損害は受けなかったわけだし。
「ほとんどすべてのことが可能と考えてよい」翁は続けていった。
それは地球へ戻れるという意味だろう。
そういえば、俺は自衛隊の訓練中に部下をかばって死んだのだった。
「あの部下は無事だったでしょうか?」
翁は微笑んだ。「お主がかばった部下のことだな? お主のおかげでかすり傷で済んでおる」
「それはよかった。あれも神に仕組まれたことなのかも知れませんが、無事だったならよいんです。それが俺の務めだったと考えているので」
「神の仕業かどうか、それは聞かぬのだな」
「今さら聞いてもしようがないですしね」
俺は困ったように笑ってから、立ち上がった。
体中が埃まみれだ。効果はほとんどないが少しはたいた。
「ほう」
翁は面白そうにした。
翁の存在による威圧は変わらない。何しろ神だ。それに詳しくはわからないが、ダーワル神を裁くのだからかなり高位の神だろう。だが事ここに至って俺の心は驚くほど平静になっていた。
「俺にかけられていた呪いはもうなくっているでしょうか?」
「最後にそなたが打ち払っておる」翁はうなずいた。
「そうですか。それでしたら褒美は3つに分けていただけないでしょうか?」
「前向きに考えよう」
「1つ目としてファミンを普通の人として生き返らせてください。彼女には問題もありましたが、この世界のことを考えて長いことその生涯を尽くしたことは事実です。今度は自らの人生を過ごすべきと思うのです。
「2つ目にキーンにも人として俺たちと同年代のものとしてもうしばらく過ごして欲しい。これはわがままになるかも知れませんが、神だと知った今でもキーンには友情を感じるのです。振り回されたことも多いですが、今考えるとそれ以上に救われています。それに多くの民がキーンの大道芸を楽しみにしています。
「3つ目にオリビエも人間にして欲しい。彼女はロボット……ゴーレムのような存在と思います。最初は本当にロボットではないかと考えたほどです。でもファミンとこれだけ似ているところをみると地球で言うところのクローン技術を用いたゴーレム、あるいはそれに似た存在だと思います。でも、彼女にも何度も救われました。それに」
俺はオリビエを未だに抱きしめているアズガを見やった。
「オリビエがいなくなると悲しむ友人がいるようなのです」
翁は笑った。だが何も言わずに手をそっと払って見せた。
するとファミンは失われた体が元へ戻った。
キーンは球の上に載っていた。
オリビエはアズガの腕の中で目を覚ました。「私は……」その声には今までになかった、だが徐々に見えつつあった感情があった。
「ありがとうございます」
俺は深々と頭を下げた。
「3つとも叶えていただけて感謝します」
「他にいらぬのか?」
翁は探るようにいった。
「それではお主にも、そちらの友人にもメリットがなかろう」
俺はプレヤの方をみた。
プレヤは肩をすくめた。「欲しいものなんてない、ありません、神よ。このように言うのは決して自信過剰というのではありませんが、そもそも私の技量をもってすれば、王都にいれば大抵は叶えることができました。それを捨てて田舎での穏やかな暮らしを選んだ。それが私の意志です。今さら何かを望むことはあり得ません」
「ありがとう、プレヤ」
俺はうなずいた。そんなことと思っていた。やはり頼りになる友人だ。
「そして俺の夢はジャーナリストになることです。呪いがもうないというなら、これからこそこの世界にジャーナリスト、ジャーナリズムというものを広めることができるってことですよね。皆の反応から考えて、この世界にはジャーナリズムは存在しない。だったらそれを広めるのが俺の望みです。それには手助けは得られません。それでは価値がないですから。異世界からの転移者でもよくないところがあるでしょうが、まずはその種をまく。それだけでも十分でしょう」
翁は破顔した。
「よくぞいった、バーソン! その心意気はたいへん素晴らしい。それでは二人には私からの祝福を送ろう。褒美を望まぬお主たちがそれで何が得られるというのではないが、お前たち二人の行く末が幸多きものであることを神の名において祈ろうではないか」
俺とプレヤはお辞儀した。
「バーソン、皆も、よくぞここまで働いた。残りの人生が幸いであることを」
翁は消えた。
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