第40話 天罰

 キーンの異常な行動に目をとられたのがいけなかった。

 気づいたら死霊はもう避けられないほど近づいていた。

「なむさん」

 俺は思わず目を閉じそうになったが、最後まであがくべしという自衛隊根性で死霊を睨み付けた。

 と、死霊が突然、消えた。まるで風にかき消されるように。

 代わりに強力な魔力を感じた。あまりの強さに俺は膝をついた。

 みれば誰も立っていられなかった。アズガはオリビエを抱えたまま両膝をつき、プレヤは倒れたまま目を見ひらいている。

 ファミンも片膝をついていた。だが何やら呪文を唱えていた。

 現れたのは真っ白な装束の翁だった。

 ファミンの魔法がその翁へ解き放たれた。だがそれも死霊と同じように消えた。

 逆にその衝撃でファミンは吹き飛ばされた。体が1/3ぐらい消失している。

 だが魔女の力なのか、死んではいないようだ。僅かに動いて翁の方へ顔を向けた。

「つまらぬことをするな」

 翁は平静にいった。

「我の力を拝借しようなど無理なことよ」

「なんてことを」俺はうめいた。「これは神なんだろう?」

 翁は俺の方を見やった。「バーソン。そなたには天界を代表して謝罪せねばならぬようだ」

「謝罪?」

「そなたはこの世界の存在でない。他の世界のものを無理に連れてくることは許されぬのだ。仮に連れてくるとしても双方の天界の合意が必要であるし、最大限の便宜を図ることと決まっておる」

「便宜は受けてないですね」俺は苦笑した。

「それどころか自らの意志を貫こうとすると失敗するペナルティを負っておった」

「意志を?」

「そうじゃ。そなたはジャーナリストになりたかったのであろう? だがその試みはいずれも失敗したのではないかね?」

「それが呪いですか」

「そうじゃ。ダーワル神の賭け事よ。実に質の悪い、品のないこと。だがバーソンよ。最後にそなたはキーンの手助けを受けたとは言え、その呪いを打ち破ったのだぞ」

「キーンの?」

「そうじゃ。そなたがここであがいたことが、キーン=ヤーテーバー神によって配信された。それによってダーワル神の悪行が知れ渡ったのだ。そしてその結果、わしがここにおる」

 キーンをみると彼は膝をついていなかった。相変わらずカメラを回している。

「バーソンの来た世界の言葉を借りればライブ配信だよ」キーンはその独特な言葉遣いも消えていた。「私は配信しただけだ。内容はバーソンのものだよ」

「表彰ものですね」俺は微笑んだ。

「もちろんさ」キーンは親指を立ててみませた。

「既にファミンの試みも承知しておる。その行いは非常に問題だが、その要因はダーワル神にあるのでな。相殺とは言わぬが情状酌量の余地はあろう」

 ファミンは泣き顔を見せた。「この世界は開放されますか? もういたずらにその命運がもてあそばれることは?」

「ダーワル神は既に捕縛されておる。そなたたちには納得がいかぬかも知れぬが禁固刑のようなものになろう。だがその期間は神にとって短くとも、この星が寿命を迎えた後のこととなろう」

「それならいいです。本望です」ファミンはうなずいた。「どのような処罰も受けます。といってももうこの存在を維持することはできそうにないですけれども」

「そうとなろう」

 翁はうなずいた。

「バーソン」

「はい」

「そなたはこの事件では単なる被害者だ。ダーワル神の力を与えたのは地上の信者でもある。地上にも責任がないとは言えぬ。だがそなたはその地上のものでもない。そなたには褒賞を与える用意がある」

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