第39話 ファミンの暴走とライブ中継
ファミンに促されて扉をくぐったとき、俺は猛烈な死の気配としか言い様のないものを感じた。
そして目の前に黒い霧のようなものが浮かんでいるのが見えた。
「死霊だ!」
俺の背後からアズガの叫び声が聞こえる。
「どうなってるんだ、オリビエ! オリビエ……」
振り返るとオリビエが凍り付いたように身動きしないで立っていた。
「危ないぞ!」プレヤの声に俺はそのまま後ろへ転がった。
直後、頭上を死霊が横切る。
俺はそのまま転がって外へ出た。
周囲を見回すとアズガはオリビエを抱きしめていた。オリビエはまったく動かない。「オリビエ、大丈夫か!」
プレヤは死霊を見ながら後ずさっている。
ファミンは少し離れたところから冷淡な眼差しをこちらへ向けている。状況から考えて死霊はファミンの手の内にあるはずだ。
「なんのつもりだ!」俺は叫んだ。
「あなたには死の危険にさらされてもらうわ」
ファミンは言った。その表情はとても冷淡だが、どこかに悔やんでいるような様子もうかがえる。だが手を引こうという気配はない。
「正直に言えば死んでもらうということになるわね」
「なんでこんなことをするんだ!」プレヤがファミンのほうへ走って行く。
「彼がダーワル神の賭けの対象ならここで想定外の危険にさらされるのは好まないはずよ。何かが介入してくるとすれば、それは反撃するチャンスになる」
「そのためにバーソンを殺すつもりか!」
プレヤはファミンに体当たりしようとしたが見えない障壁に阻まれた。プレヤは想定外の衝撃に倒れてしまい、したたかに体を打ってある種のショック状態で身動きがとれなくなった。
死霊は執拗に俺を狙ってくる。死霊に詳しいわけではないが、明らかにあれに接触されたらよろしくない。さいわい接触以外の攻撃の気配はないが、宙を浮かんで飛んでくる相手にどこまで逃げ切れるか。
俺はとっさにあの短剣を引き抜いた。だが次の瞬間、短剣はボロボロになって崩れた。
「それは私の魔法がかかっていたのよ。使わせるつもりはないわ」ファミンが言う。
「くそっ」俺はさらに転がって死霊を避ける。
反撃する手段もないのではただの的だ。逃げ続けるのにも限界がある。さいわい命を狙われているのは俺だけだ。ここは逃走するしかない。
そのときキーンの姿が目に入った。
キーンはいつものふざけた様子もなければ、球にも乗っていなかった。
「あれは……ビデオカメラか?」
キーンは地球でおなじみのハンディカムのようなものを構えて、こちらを撮影?していた。
キーンの撮影した映像はライブで天界で配信されていた。
どうやったものか、ダーワル神の賭け事参加者だけでなく、天界全域にいわば一般公開で配信されていた。
「どうなっているんだ!」
ダーワル神は部下を叱責していた。
「こんな放送は予定していないぞ! それになんだ、この魔女は。こんなものが存在するなど報告を受けていない!
「それにこの放送、ヤーテーバー神じゃないのか! すぐに止めさせろ!」
「す、すぐに連絡をとっているのですが返答がないのです」部下は小さくなって答えた。
「すぐに誰かをよこせ!」
天界でも別の場所では厳かな会議室で映像が視聴されていた。
そこには20名ほどの落ち着いた、しかし風格のある神々が集っていた。
「これはひどいですな」
「みにくいものだ」
「だが、疑義は明確になったと言えよう」
その中で真っ白な装束の神が言った。
「ヤーテーバー神には潜入捜査、見事なものだったと言わざるを得まい。
「世界間の協定を破り転生させる。また地上の生物を賭け事の対象とする。しかも残酷な意図を持って干渉している者たちがいることは近年の悩みの種だった。これが事実ならそれはダーワルが首謀者だということだ。特に異世界への干渉は重大事だ。このことは天界間同士の大きな問題となるだろう。今から考えても頭の痛い話だ。どれだけの賠償・譲歩を求められることになるか……」
「事実ならば。確認が必要ですな」別の神が少しずるそうに言う。
「むろんだ。それは私が行おう」
「上位神みずから?」
他の神々はどよめいた。
「そうだ。これが事実なら由々しきこと。これ以上の被害を認めるわけにはいかぬ」
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