第38話 ファミンの歓喜

 俺はよみがえった記憶を皆に説明した。

 俺は地球と呼ばれる世界からの転生者であること。転生する前に天界と思われる場所で壇上で晒されたこと。その場はどうやら何かの賭け事の場で、俺はその賭けの対象として転生させられたことと何かのペナルティが与えられていること。

 そして賭けの胴元がダーワルという名前だったこと。


 それを聞いてオリビエはマスターであるファミンにも話してよいか確認してきた。

「もちろんよいよ。むしろ意見を聞きたいから、前と同じように魔法でつないでくれないか?」

 オリビエは再び魔法(いわばWeb会議だ)でファミンとつないだ。

 俺は手短によみがえった記憶を伝えた。

 それを聞いたファミンは歓喜の声を上げた。「ついに!」

「何が?」その喜びように圧倒されて俺は聞き返した。

「転生者が悪い神の賭けの対象になっていることは把握というか推測していたの。地上は神々の遊びの対象にされてしまっていたのよ。でもどの神が関わっているのかがわからなかった」

「これでダーワル神が胴元だとわかった」

「そう! それよ! これで対策を考えられるわ」

「それは凄いことなのかな」

「それはもう。すごい大進歩。これを機に神々の遊びから逃れることができるかも知れないわ!」

 ファミンは言った。

「これはぜひもっと詳しいことを話してもらいたいの。こちらへ来ていただくのが一番よいのだけれど……」

「マスターはほとんど移動できないのです」

 オリビエが補った。

「マスターは魔法を極めた結果、長寿の効果のある魔法を使っています。ですが、これは生きながらえるだけでたいへんな消耗を生むのです。人間は本来短命です。エルフのように長寿の体ではないので無理があるのです」

「そう、説明が足りなかったわね。ありがとう、オリビエ」

 ファミンはうなずいた。

「本当は私がそちらへ行くべきでしょう。でも今オリビエが説明してくれたように、私はほとんど移動できないの。旅に耐えられるような体力はもうない。それにここから出れば神々に発見される恐れもある。神々にとって最も危険な地上の存在になっていると思うから、見つかれば即刻攻撃を受けると思われるのよ。

「ですのでオリビエに案内をさせるので、こちらへ来ていただけないかしら」

 プレヤは肩をすくめた。「どちらにしても我々は王都に留まれる状況ではないからな。それもいいのではないか?」

「わかりました、伺いましょう」


 オリビエには転移の魔法があった。だがそれは個人単位の魔法で誰かを連れて行くことはできないものだった。

 だから俺たちはまず密かに王都を出る必要があった。プレヤ、アズガ、キーン(いつの間にか戻ってきて合流していた)は王都でも有名人だ。しかも王都は厳戒態勢と言ってもよい状況にある。密かに動くのはとても難しい。だがそれはオリビエの知っている秘密通路を使うことで解決した。

 次に移動手段だ。馬をこれだけの人数分集めるのはかなり目立つ。

 だがそれはキーンが野生の馬を連れてきて解決してしまった。キーン自身は球に乗ったままだ。それで馬と同じぐらいの速度で動けるというのだから驚きだ。いや、キーンの正体にも怪しいところがあるので、ある意味では驚くではないのかも知れない。

 俺たちは1週間かけて王都を離れ、モンスターが出るために人がほとんど立ち入らない山脈にたどりついた。森深くへ踏み込み、崖に隠れた洞窟へとたどり着いたのは更に3日後だった。


「ようこそ、バーソン、皆さん」

 ファミンが我々を出迎えてくれた。

 こうして直に見るとますますファミンとオリビエが似ていることがわかる。オリビエが若く・完成された美しさを有するのに対し、ファミンはその原型で中年・平凡といった感じだ。並んでみるとますますオリビエがロボットのように思えてくる。

「よく連れてきてくれました、オリビエ」

「マスターの命令を遂行しただけです」オリビエは淡々と答える。

「そうね」ファミンも当然というように受けた。

「さぁみなさん、中へ入ってくださいな」

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