第33話 今度は俺たちが襲撃犯に?

「王城および高位貴族の屋敷の4つからの脱出用抜け道を把握しています」オリビエは何ということなしに答えた。

 俺は頭を抑えた。「なんてこった」

「前から思っていたことだがお前は何者なんだ?」プレヤが言う。

「私はマスター……」

「それはいつも聞いているな」プレヤが遮る。「マスターが何者かは言わないのだろう? ならば何を目指しているかは?」

「それも言えません」

「オリビエは王都で何をしている?」俺は横から言った。

「……バーソンの警護です」

「俺の?」薄々感じてきたことだが明確な発言は初めてだと思う。

「マスターの願いを叶えるためにバーソンの安全を保っています」

「……キーンは何者だ?」

「わかりません」オリビエは即答した。

 どうやらオリビエはマスターの命令に関係ないことと命令で明確にしてよいことは即答する傾向があるようだ。だとすれば本当に知らないのだろう。

「確かにあいつも怪しいよな」プレヤも言う。

「ピエロが?」アズガが不思議そうに言う。「ただの旅の連れではないのですか?」

「それはどうかな。幾つか思わせぶりなところがあるからな」俺は過去のことを思い出しながら言った。「何度か助けられたことがあるんだ」

「ピエロに?」アズガは疑わしそうだ。

「そうさ。むしろピエロだから助けられたと言えるかも知れないな」

「バーソンがそう言うなら」アズガは納得した様子ではない。

「こういうときにはいないしね」

 俺は言った。

「まぁ考えてもしようがない。オリビエ、王城へ連れて行ってくれ」

 俺の発言にプレヤとアズガは目を見ひらいた。「正気か!」

「こうなっては逃げても俺たちの立場が良くなることはないだろう? それであればここは混乱のあるうちに一気にけりを付けるべきだと考えたんだ」

 内心としてはそんなことはしたくない。だが客観的に考えてここで後手に回れば、公爵と法王の手であっという間に俺たちが悪者にされてしまうだろう。そうなってからでは何もできない。ここは王家に動いてもらって解決してもらうしか思いつかない。

「わかりました。ついてきてください」


 俺たちはオリビエの案内で倉庫街へ向かった。王都内はピリピリした空気が張り詰めていた。ほとんどの店が閉じられている。町を歩いている人数もものすごく少ない。

 俺たちは目立たないようにバラバラに分かれて移動しつつ、オリビエに指示された 寂れた倉庫の一つの中へ入った。

 中はがらんどうだったが、オリビエはスタスタと歩いて行き、奥にあった小さな扉を開いた。

 そこは掃除道具入れだった。オリビエはホウキなどを取り出した。

「ここです」

「隠し扉?」

 オリビエは空になった掃除道具入れの床板を持ち上げて見せた。


 そこからはものすごく狭い通路が続いていた。1時間ぐらいぐねぐねと歩いただろうか。いくつか罠もあったがオリビエが勝手知ったるなんとやらという感じであっさりと解除していった。

「これは国王暗殺計画といわれても納得できるよな」プレヤが言った。

 俺は苦笑した。「まぁね」

「そんなことは!」アズガは抗議の声を上げた。

「大きな声を出すなって。どうかんがえてもよくない仕事に見えるのは間違いないよ。実際、これで出た先次第では戦闘になるかも知れないしね」

「そのときは私が命に代えてもバーソンを守ります」アズガは相変わらずだ。

「そうなっても死者は出さないでください。我々は情報を伝えたいので敵対してしまうとどうにもならなくなってしまうでしょう」

 そう言いつつも俺はこの作戦は失敗すると思っていた。これまでもいろいろと失敗しているのだ。ここだけ上手くいくとは考えられない。

 それでも前に進むしかないのだ。


「ほらね?」

 プレヤが肩をすくめたのは秘密通路を出た先で1分ほど歩いたときだった。

 目の前には豪勢な扉があった。そしてその前には4名の騎士が立っている。俺たちを見てすかさず武器を構えた。

「侵入者だ!」

 俺はもともと短剣ぐらいしか所持していない。プレヤはあえていえばナイフ(生活用)。アズガも神殿で捕縛されていたので武器はなし。オリビエは魔法用の杖をもっているのでこれが最高の武器か。

「悪意はないんだ!」俺は両手を挙げて叫んだ。「話を聞いて欲しい!」

「王城のこのような深部まで潜り込んでおいて何を言うか!」

 騎士は武器を構えたまま一歩前に出てきた。

「武器を捨てよ!」

「捨てるほどの武器さえ持っていないよ」

 俺はそう言って持っていたのとしまっておいた短剣を床へおいた。他の皆も(そもそもほとんどない)武器を捨てた。

「それは!」騎士の一人がしまっておいた方の短剣を見て叫んだ。「攻撃用のマジックアイテムではないか!」

 どうやら武具やマジックアイテムに詳しい者だったらしい。

「そうだ。でも捨てたぞ」

「あれはとてつもなく危険なやつです」その騎士が先頭の騎士に言う。「発動したらこのあたりを吹き飛ばしますよ!」

 俺は天井を仰いだ。確かにあれは命を救われた側面もあるがそれ以上に厄介ごとももたらしてくれるようだ。

「えぇい、襲撃犯め!」騎士は槍を突き出すようにした。「武装解除せよ!」

「だから武器は全部捨てたってば」

 騎士はいささか混乱しているようだった。

「抵抗すれば命はないぞ!」

「だから……」

 そのとき、騒ぎを聞きつけたのか騎士の後ろの扉が開いた。

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