第31話 喜劇「王都の夕暮れ」上演

「オリビエがいないぞ」

 プレヤが言った。

 上演予定時刻まであと少しというタイミング。俺たちはまずは1回抜き打ちでこの劇を上演して話題造りをすることにしていた。そのためゲリラ的に王都内の広場で上演しようと直前になってやっと現地入りした。

「なんだって?」俺はうめいた。なにしろもともとプレヤ、キーン、オリビエ、俺氏か出演者がいないのだ。一人欠けても問題は大きい。

「延ー期はぁ無理だよぉ」キーンが言う。

 俺たち、いやキーンを見つけた一般市民とプレヤに気づいた上流あるいは芸術に詳しい市民が既に広場には集まってきていた。これ以上、時間をかければ衛兵がやってきてしまい、解散させられてしまう恐れが高い。

「オリビエの部分はキーンに2役やってもらおう。ストーリー的には成り立つはずだぞ」プレヤが言う。「喜劇になってしまうだろうがな」

 オリビエとキーンが同時に出てくるシーンがないのだ。

 俺はうなずいた。他に手立てがあるわけでもない。

「はじめるぞ」


 劇はまず王都周辺を舞台にして始まる。隊商(俺)が進んでいくと野盗(プレヤ)に襲われるのだ。そして野盗たちが物資を奪っていく。

 次のシーンでは野盗たちが整理品を手に宴をする。

 そこへフードを目深に被った怪しい人物(本来はオリビエ→キーン)が現れ、野盗から物資を買い取っていく。

 次のシーンではその怪しい人物が大商人(プレヤ2役目)に食料などの物資を届ける。更に続けて怪しい人物は架空の神クァーグの神殿へ行き貴重品を祭壇に奉納する、怪しい人物が立ち去るやいなや高位神官(キーン)がいそいそと運び出し、大貴族(俺2役目)に引き渡す。

 シーンが大きく切り替わり民衆(プレヤ、キーン、俺)が興奮して抗議デモをする。

 隊商を野盗が襲う~大貴族に引き渡すをもう一度行う。次のシーンでは民衆は王城へと向かい城門の前で抗議の声を荒らげる。

 ストーリーだけだと面白みの欠片もないが、キーンが怪しい人物をオーバーかつ滑稽に演じ、プレヤが要所要所で素晴らしい演奏で場を盛り上げるので、観客には大受けだった。

 劇は最後に民衆(プレヤ)が奥方(キーン)に耳を引っ張られて家へ帰っていくというシーンで終わる。プレヤは民衆役をしながら器用にリュートを演奏していた。


 劇が終わりにさしかかったところで、俺は舞台裏でほっと一息ついた。オリビエがいなかったことでキーンが代役を務め、全体をコミカルにもり立ててくれたの予定外に喜劇としてうまくまとまっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る