第27話 スクープ「謀反の兆し」をどうするのか?
ここは正直に言おう。倉庫から見つからないように帰った俺はスクープに胸を踊らせていなかったとはとても言えない。これほどの大ニュースネタだ。これで俺もジャーナリストとして大きく躍進できるぞ、と意気込んでいた。
だが王都へ戻った俺はこのスクープを広めるメディアがないことに気づいた。
テレビもない。ラジオもない。新聞も雑誌もない。
インターネットももちろんない。
だがあれだけの武器がもう揃っている。町での不満もたまっている。いつ謀反が発生するかわからない。のんびりとしている時間はない。
「どうすればいいんだ!」
俺の報告を聞いたプレヤは腕を組んで考え込んでいた。
「情報はしかるべき筋に持ち込めば売れるはずだ。しかしこれはどこへ持ち込むかな」
「売ってどうする?」
「正直に言えばわからん。だがここで抱え込んでいてもしようがあるまい」
「それもそうだが」
「それに普通なら情報が漏れることを恐れるところだが、今回はむしろ望むところだ。そういう意味では楽かもしれんぞ」
「だが間に合わない可能性が高いじゃないか。そうだ、瓦版とかないのか?」
「瓦版?」
「印刷……そうだな。書いたものを複製するんだ」
「代筆か? だが字を読めるのは中流以上の育ちの人間だけだぞ」
「代筆じゃなくて……どっちにしても駄目か。絵に描けるような内容じゃないな」
「描けたとしても時間がかかるな。そもそもこんな危険な情報だ。下手をすればこちらが逮捕されるか、殺されるかだぞ」
俺は殺されるところまでは想像していなかった。
だが、確かにそうだろう。この世界の価値観からすれば殺される恐れは十分にある。
「なんとか王族に伝えることはできないかな?」
「いくら俺でもそれは無理だな」プレヤは言う。「王都から離れて時間も経っている。人脈を辿るにしても時間がかかるだろうし、王家までたどり着けるほどじゃない」
宿の部屋で俺とプレヤが結論の出ない不毛な議論を続けていると、不意に扉の外でぎしぃっという足音がした。
俺たちは口をつぐんだ。俺もプレヤも大した武器は持っていないがそれぞれ短剣をとった。
「誰だ!」
「ここを開けてください」それは謎の女オリビエの声だった。
俺とプレヤは困惑した顔を見合わせた。
だが扉を開けた。
「こんにちは、入っても?」
「どうぞ」俺は用心しながら扉の前を開けた。
オリビエは堂々と入ってきた。一人だけだ。少なくとも官憲を連れてきた、といったことではないらしい。
俺は扉を閉めた。「用件は?」
「お手伝いすることがあると考えています」オリビエは椅子に腰掛けていった。「あなたたちは謀反の情報の扱いに困っているはず」
「どうしてそれを?」俺は警戒した。短剣をぎゅっと握る。
「困っていないのですか?」オリビエは俺の質問を無視した。
「仮に困っているとしたら?」
「王都からの脱出を支援します。このままここに留まるのは危険。もはや通常のルートで王都を出ることさえ危険かも知れません」
それは予想外の提案だった。
「急いで王都を出れば巻き込まれることもないでしょう」
「俺たちを連れてきたのは何か理由があるのではないのか?」
「私が連れてきたのはバーソン。他の人は知らない。理由は明確にはない」オリビエは淡々と答えた。
「この謀反を調べさせるためとかでは?」
「わからない。何かあるかも知れないけれどもそれを予見できるわけではない」
「わけがわからない」俺はうめいた。「なんなんだ?」
「それが私のマスターの目指すところ」
「マスターというのは誰だ?」
オリビエは口を閉ざした。「回答しません」
「これじゃ何も決まらんよ」プレヤが口を開いた。「正体が不明すぎる」
「私にもわからない。でも可能性の残る限りは命を救う」
「何の可能性だ?」
「回答しません」
「マスターか?」プレヤは腕を投げ出した。「勝手にしろよ」
だが俺は少しわかってきた。オリビエの受け答えはものすごく「機械的」なのだ。まるでプログラムされているような感じだ。特定の情報を話さないようにしている、あるいはさせられている。だから話さない内容がある。だが嘘はつかないのではないか?
「マスターのために働いているんだな?」言ってみた。
「そうです」オリビエは答えた。
「マスターの目的は言えない?」
「回答しません」
「当然、お前はマスターに報告をしている」
「そうです」
「マスターは俺を殺すつもりか?」
「現状ではそのような意思はありません」
俺はほっとした。「現状では?」
「未来はわかりません」オリビエは淡々と答えた。
「明日の天気は?」
「この地方の天候から考えても明日も晴れです」
未来のことはまったく話せないのではないと。そうなると本当に状況次第では殺されるわけだ。あまりぞっとしない。
「王家へ情報を伝えることはできるか?」
「できません」
回答できないではないと。
「俺を手伝うことはできる?」
「基本原則に反しない範囲でお手伝いします」
俺は心の中でガッツポーズをした。何ができるかわからないが手伝いは得られるわけだ。伝も戦力もない現状では何でも貴重だ。
「オリビエは魔法使いだな?」
「……そのように言っても差し支えがありません」
それだと魔法使いではないという意味になるが……。
「魔法は使える?」
「使えます」
魔法が使えるのに魔法使いではない。禅問答だろうか。
「まぁいい。俺は王都を逃げ出すつもりはない。それは理解して欲しい」
「安全が確保されるなら問題ありません」オリビエは相変わらずの無表情だ。
「オリビエが周辺にいてくれれば、安全ではないかな?」
「私を凌駕する魔法使いはこの王都にはいません。その意味では安全でしょう」
「よし、それでは防衛は任せる」
そこにノックの音がした。「バーソン!」キーンの声だ。「開ーけてぇくれよぉ」
扉を開けるとピエロのキーンがまた玉に乗っていた。
「昨日ーぶりだねぇ」
「キーンのおかげで凄い情報を得ることができた。感謝する」俺は頭を下げた。
「お酒はー手に入らなーかったよぉ」
「それは残念だったね。さて、俺たちは手に入れた情報をなんとか王家へ届けたい。キーンの人脈でなんとかなる可能性は?」
キーンは器用に玉の上で肩をすくめた。「ピエーロのことをぉ真面ー目に扱ーう人なんてーいないよぉ」
「王都でも人気のようだがな」プレヤが少し忌々しそうに言う。
「プレーヤだってぇ演奏会ーを開けーばいいじゃないかぁ」
演奏会?
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