第26話 消えた楽器を探せ(4)
「今日ーは一緒ーに来ーてくださいなぁ」
翌朝。俺はピエロのキーンに叩き起こされた。
目を開けると目の前にサンドイッチが突き出されていた。
「はいー、朝食ぅ。食べてぇ」
無理矢理口に突っ込まれる。
「食ーべたらぁ、着替えーるぅ」
続いて、無理矢理引き起こされた。
戸惑いつつも寝起きの定まらない頭で言われるままに着替える。
「いくーよぉ」
キーンは扉を開けた。
なすがままに連れられてきたのは、郊外の倉庫だった。王都の郊外にはこういった巨大な倉庫があちこちにある。大して貴重な物資ではないがかさばる食料などが王都に持ち込まれる前に保管されることが多い。
貴重ではないにしてももちろん警備に兵士が立っている。商人が雇った私兵だ。
「ちょっと厳重じゃないか」俺は兵士の数に驚いた。
王都に来るまでにいろいろなことを学んだ。こういった倉庫にいるのは大して腕の立たない若造か体力の衰えた老兵で、数も多くはないのだが通常だ。もともと獣などによる損害を防ぎ、それ以上の戦力が来たら逃げて通報することが役割なのだ。
だがその倉庫には多数の兵士が周囲に立っていた。
キーンは常ならぬ様子でただ黙っていた。
しばらく観察していると王都とは反対側から3台の馬車がやってきた。馬車に乗っているのは商人といった風体ではない者ばかりだ。
「はっきり言えば野盗にみえるな」
兵士と呼ぶには装備がバラバラだし統率もとれていない。
冒険者と言うには柄が悪い。
馬車はそのまま倉庫の中へ入っていった。
次は王都の方角から1台の馬車がやってきた。家柄を表すような飾りが何もない、素っ気ない馬車だ。この馬車も倉庫に消えた。
キーンは静かに歩き出した。そう、いつの間にかピエロは玉に乗っていなかった!
驚いてそのまま続いてしまう。
絶対に見つかってしまうと思ったが、キーンの歩む道はちょうど警戒中の兵士の隙間を奇跡的にすり抜けるものだった。
そしてそっと倉庫の中に潜り込んだ。
倉庫の中では最初の馬車から積み荷がどんどんと下ろされていた。
「その俵はあっちだ!」
記録をとっている男が指示を出す。
「そっちの箱は隣の倉庫だ!」
「これはどうしやすか?」野盗(仮)の1人が高級そうな宝石箱をもってきた。
「それはこの馬車に乗せろ」
どうやら物資の大半は倉庫に留めるらしい。だが貴重品は馬車に積んでいる。
あっという間に3台の馬車が空になると、驚いたことに馬車はその場で解体された。板の類いは外へ持ち出された。金具の類いだけ倉庫に格納されたようだ。
「これでおしまいだな」記録をとっていた男が言う。「お疲れさん」
そういって懐から袋を取り出して野盗(仮)の一人に渡した。
「今日の稼ぎだ」
「まいど。また買い取ってくださいや」
「こちらの指示通りに隊商を襲ってくれれば儲けは約束する」
男は言った。
「指示通りにな」
「わかっていますぜ」
野盗(仮)は仲間を振り返った。
「おし、これで飲むぞ!」
俺はてっきり王都から来た馬車を追跡するものと思っていた。
だがキーンは馬車は無視し、別の倉庫へ移動した。
そこは他の倉庫と違う雰囲気が合った。よくよくみると格納されている物資は食料ではない。なんと武器だ。
多数の槍・盾などが雑然と並んでいた。
槍は特段に訓練を受けていない兵士でも数が揃えば脅威になる。盾も個々の防御能力はあまり期待できないが、揃って陣形を組めば一定の抑止力になるだろう。
そんな武器が多数あるのだ。
「武器商人、といった仕事じゃないな」俺はうめいた。「これは戦争準備だ」
俺は思い違いをしていたかも知れない。
野盗騒ぎは営利が目的ではないのかも知れない。営利目的ならこんな風に武器に投資しないだろう。実際に野盗たちはここにあるような武具は使っていなかった。
「だとしらなんだ? 戦争? 反乱か?」
俺は様々な現代地球での歴史を思い返した。武器を隠れて備蓄する目的の一つは国家転覆、すなわち反乱だ。
現在、王国では野盗騒ぎのおかげで王家の人気は下火にある。野盗たちは減るどころか増える有様であるから、近いうちに不満が何かの形で爆発する可能性は高いだろう。
そこへ武具が提供されたら暴徒が一気に暴れ出す。
そうなったときに今の王家にそれを取り締まり、抑制するだけの力があるだろうか。なければそのままクーデターということになるだろう。
「大事じゃないか」
俺はうめいた。そしてふと気づいた。
「キーン、一体お前は……」
振り替えるとキーンはしおれていた。「お酒ぇがーないぃ。お酒ぇがぁ隠さーれて、いるーと思ってぇいたのにぃ」
「おいおい、まさか酒狙いでこんなところまで来るか」
「奪ーわれたぁ荷物ーにウェーラーズぅ地方のー15年もーのがぁあったはーずなのにぃ」キーンは世も末とばかりに泣いていた。
「そんなものは流通しないに決まってるじゃないか」俺は切り捨てた。「貴重品は出てこないんだ」
キーンはがっくりと肩を落としていた。
「まぁ、いいさ。これはスクープだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます