異世界転移したけどジャーナリストになりたい!~異世界転移は胴元神の興行。加護は言語理解だけでその対価にペナルティ付与されました~
第22話 消えた楽器を探せ(それはジャーナリストでなくて探偵では...)
第22話 消えた楽器を探せ(それはジャーナリストでなくて探偵では...)
プレヤの知り合いからの話を聞いて、バーソンとプレヤ(とキーン?)は奪われた楽器のありかを探すことにした。楽器がどこから出てくるか、それがわかれば野盗の背景が自ずと見えてくるはずだ、ということだ。
これまでも貴重品が奪われているが、足のつくような個体(名のある宝石や今回のような特殊な楽器)は一切、裏市場にも出ていないということだ。だとすればよほど自制心があるか、それらの貴重品自体を狙ったコレクター的な者が背後にいることが考えられた。
野盗にそんな自制心があるとはとても思えないし、楽器をありがたがる野盗というのも想像が難しい。山奥でフルートをご機嫌に奏でる、成金趣味の野盗ということになってしまうわけだから。いや、想像しなくて結構ですよ?
俺はプレヤと宿の食堂で朝食しながら相談していた。
「どうやってみつけるか」プレヤはうなった。「楽器だからな、手にするまでもなく目の前にさえすれば、一瞬で看破してやるのだが」
「そこは信用しているよ」俺は言った。「だが目にすることができるようならもはや問題は片付いたような者だろう」
「そこだな」
2人で頭をひねっていると、ピエロのキーンが器用にやってきた。「おやおーやぁあ、プレーヤ殿は楽器を見なーいとわからないのでぇ?」
「なんだと」プレヤは声を荒らげた。
キーンは臆することなく……これまでに一度も何かに臆するような様子を見せたことはないが……続けた。どこからともなくジャグリング用のジャラジャラと音の鳴る棒を取り出して宙に放り投げた。さすがピエロ、落とすどころか危なげも見せずに交互に棒を投げてみせる。「私なーら、この愛用の道具ぅ、見えーなくても区別してー見せますよぉ」
「どうやってだよ」プレヤは噛みつくように言う。
「わかーらないのですかぁ?」
キーンはジャグリングのスピードを上げて見せた。スピードが上がるにつれ、棒のたてる音も大きく・テンポも上がっていく。
プレヤはいまいましそうにしていたが、不意に目を丸くした。「音か! 確かに音を聞けばわかるな」
キーンはジャグリングが楽しくなってしまったようで、嬉しそうにそのまま店から出て行ってしまった。外から小さな歓声が聞こえてきた。臨時の大道芸を始めたらしい。
「遠回しないいかたを」プレヤは言った。だがちょっと悔しそうな表情だった。キーンの指摘はしごくもっともだった。
「プレヤは演奏している音を聞けば区別できる?」
「あぁ。奴の作った楽器だ。おれにはわかる」プレヤは自信満々に言った。「よい楽器には製作者の思いと特徴が刻み込まれているものなのだ」
「俺にはさっぱりだが、プレヤができれば問題ないな。でも外で演奏はしていないだろうなぁ」俺は腕組みした。「そこを解決しないとならない」
「だがきっと演奏はしているはずだ。楽器を入手しておいて飾っておくはずがない」プレヤは断言した。「その音色こそが素晴らしいのだからな」
「まずは正体不明の演奏の音が聞こえないか、その調査からはじめるかな。それだけでは解決しないけど、まずははじめてみよう」
野盗が何らかの形で組織的に運用されていることは間違いないだろう。だとすればそれなりの資金が投入されたことを意味する。少なくとも最初は相当の資金を必要としたはずだ。
だとすれば、この王都でそれだけの資金のあるところを探すのがよい。
王都暮らしの長かったプレヤによると、それに該当するのは王家、貴族、大商人、神殿、魔術師協会だけだろうということだった。
「どこから調べる?」
「そうだね」俺はうなずいた。「どこからでもよいけど、王家はないだろう。自分の首を絞めるようなものだから」
「それもそうだな」
「それは私が協力しようではありませんか」
いつの間にか食堂に神殿騎士アズガがやってきていた。
「神殿にはいろいろな訴えが届くのです。その中には騒音問題もね」
「なるほど」俺はうなずいた。「それは心強い。人を雇うしかないかと思っていたが、それにはお金が必要だからどうしようかと思っていました」
「むしろあちらからきてくれますよ」アズガは胸を張った。
「ところで何の用でこちらへ?」俺は順序が違うことに気づいた。
「なに、あなたなら何かしてくれるのではないかと期待したのです。正解でした」
俺は顔をしかめた。「解決しようとしているわけじゃないんだ」
「それでもです。正直なところあなたのお考えはわかりかねますし、理解もしがたいのですが。早速神殿へ戻ってそういった担当の者たちに話を聞いてきます」
「頼むよ。とても助かる」
そういって出て行ったアズガは、しかし、翌朝まで戻ってこなかった。
翌朝、要約戻ってきたアズガは一日でずいぶんと憔悴しているように見えた。
「おいおい、どうしたんだ」プレヤが言う。「やつれてるじゃないか」
アズガは崩れるように椅子に座った。「申し訳ありません。昨日のお話ですが、私は頼りになれません」
「どうしたんだ? 何も情報がなかったのか? そんなことは当たり前だろう。別に気にしやしない。あれば幸運というところだったんだ」
「そうじゃないんです」アズガは首を振った。「それ以前の問題がありました」
「信徒の情報は持ち出せないとか?」俺は聞いた。
「いえ。そういったことは特にないのです。ですがこの件について調べようとしたところ、上から中止させられました」
「上から?」
「はい。頼りにならず申し訳ありません」
「アズガのせいじゃない。だがどうして?」俺は驚いていた。情報が得られる可能性は低いとは思っていた。だがそもそもアズガの情報収集が妨げられるというのは想像できなかった。
「私にもはっきりしないのですが」アズガは言いづらそうだった。「かなり上の方の意向があるようです」
「そりゃそうだな」プレヤがうなずいた。「アズガ、お前は神殿ではそれなりに高い地位にあるんだろう。それが邪魔されるんだから。邪魔できるとすれば、それこそ最上位に近いのではないかね」
「……」アズガは表情を凍り付かせた。
「言えないわな。さて、どうするかね、バーソン」
俺は驚きはしたが困惑はしていなかった。「これはすごいスクープの気配がするぞ」
「スクープ?」
「いや。そうだな、逆に中止させられたことが何かをほのめかしていると思う。神殿から調べよう」
プレヤは拳を打った。「なるほど。何かやましいことがあるから中止させたと言うことか」
「まさか」アズガはうめいた。「神殿の関係者、それも上層部が……」
「でもそれを疑っているんだろう? だからそんなに疲れてるんだ。眠れなかったのか?」
俺は聞いた。アズガは小さくうなずいた。
「俺の部屋で休んでいくといい。俺は神殿の周囲をあらってみる」
俺は立ち上がった。
「アズガ。とても助かったよ。休んででくれ」
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