第18話 王都への旅
「それでは明日の朝出発です」
オリビエはまったく動じていない。
「迎えに来ます。朝食の後の時間でよいですね」
「私も行こう」
「私ーも行きますぅ」
プレヤとキーンが声を揃えた。
「もう何が何だかわからんが、バーソンが王都に行くのは止められぬ気がする。ならばせめて手伝おう」プレヤが言う。
キーンはお気楽にそうそうという感じでうなずいている。
オリビエはまた凍り付いた。
「...。よいです。明日の朝食後に迎えに来ます」
オリビエは立ち上がった。
「準備に何か必要ですか?」
俺はプレヤと顔を見合わせた。キーンは無視しているが積極的に目を合わせてくる。「たとえば?」
「...お金でしょうか」
「旅費をもってくれるというなら不要だな」俺は言った。
「わかりました。それでは明朝」
オリビエは立ち去った。
いささかその歩調がいつもよりも頼りない気がするのは気のせいだろう。
「いいのか? 王都だぞ?」俺はプレヤに言った。「お前のほら話がばれちまうかもしれないぞ? 王都で有名な演奏家だって言い張っていたよな」
プレヤはにやりとした。「いやいやそれは違うぞ。お前こそ俺の話が真実であることに腰を抜かすなよ?」
「私は王都でーも有名ですよぉ」キーンが割り込んでくる。
俺はキーンを見やった。「本当についてくるつもりか? まったくわけがわからないのはいうまでもないが、それだけに危険もあると思うぞ。あんたはあやしい人物だが、あちらで村長の嫌疑を晴らしてくれた恩人でもある。巻き込みたくはない」
「おやぁおやぁ、感謝ーの言葉ーをいただけるとはぁ」キーンははぐらかした。「問題ないですぉ」
俺は肩をすくめた。「まぁ、2人とも自由にするさ。それにしても王都か」
「王都は華やかだぞ」プレヤが言う。「それだけに闇の部分がないわけではないが、華やかなところは楽しみにしておけ。それに俺のファンに取り囲まれることもな!」
「わたくしぃのファーンもねぇ」キーンが言う。
2人のふざけた態度は緊張した俺を解きほぐしてくれるものだった。キーンはよくわからないが、プレヤはわざとだろう。よい友人だ。
「そうとなったら荷物をまとめないとな」プレヤが言う。「お前は用意できてるんだろう?」
「帰ってきたばかりだからな。このままにするさ」
正直に言おう。俺はオリビエが何が凄い魔法で俺たちを王都まで連れて行くんじゃないかと期待していた。
瞬間移動とか、転送ゲートとか。その瞬間はどんな感じがするのだろうか。現代地球でも似たような体験はできないから、わくわくしていた。
せめて飛行。ホウキに乗るとは言わないだろうが、自らの体で取りのように飛べたら楽しいことだろう。
あるいは竜やワイバーンを使役しているというのもありだ。怪物はちょっと怖いが、見たこともない生き物に乗って飛ぶというのも楽しそうだ。
だがオリビエのしたことはいわば金にものを言わせる、ということだった。
まずこの間までいた村まで馬車を雇う。
村へ着くと商船に乗車料金を払って乗り、海まで出る。
更に別の船に乗って海沿いに西へと進んだ。
船で大河を半分登り、残りはまた馬車に乗った。
確かに快適だった。一等船室とは言わないが、十分に贅沢な旅だった。だがそれはあくまでも牧歌的で、かつ地球でも味わおうと思えばできる内容でしかなかった。
とはいえスポンサーに悪いので嫌な顔は見せなかった。
見せていないと思うが、オリビエはいつも通り無表情でいかなる感情も見せなかった。
というわけで特段語るべきことも起こらず、オリビエとの交流も特にないまま、王都へ到着したのだった。
「途中にイベントとかないのか」俺はつぶやいた。
プレヤが冗談じゃないという風に首を振った。「何もなくて幸いだよ。こんなに何もないのは凄い幸運なんだぞ、バーソン。盗賊にも会わない、ゴブリンにも会わない。いいじゃないか」
「それはそうだが、旅にはハプニングも期待するじゃないか」
「お子様め」
そこへ船の上でも馬車の中でも玉から降りないピエロのキーンがやってきた。もちろん玉の上だ。
「あのー門からぁ入るようだねぇ」
一同の先頭はもちろんオリビエだ。スタスタと歩いて行く。
王都は低い城壁に囲まれていて、中に入るにはいずれかの門を通る必要がある。門では門衛が基本的なチェックをしていて、不審人物の侵入や危険物の持ち込みを防いでいる。
とはいえパスポート的なものが必要なわけではないとのことだ。そんなものを用意してしまったら、門を通るのにものすごい時間がかかるだろう。それぐらい多くの人や場所が行き来していた。
「それで俺たちはどこへ向かうんだ?」俺は前を行くオリビエに聴いた。
冒険者ギルドで冒険者になる。
寺院を訪問する。
まさかまさかの王城へ?
そこまでいわずとも大商人や貴族に面会?
実はオリビエはお尋ね者。
聴くまでに様々なケースを想像していた。
オリビエは立ち止まって振り返った。その表情はいつも通りの平板だ。
「目的地なんてありませんよ」
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