第15話 胴元神ダーワルとヤーテーバー神々

 胴元神ダーワルの日常業務の一つに興行の対象である転移者の状況を確認することがある。

 ダーワルは真面目に働きたくないので胴元神をやっている。いや、胴元神だから真面目に働きたくないのか。まぁ、なににしろ真面目に働く気はないのだ。転移者を使ってギャンブルと「映像配信」を一体化した興行で儲けたいだけなのだ。

 転移者の状況も直接、神の視点で見ることができるのだが、そんな面倒なことをダーワルがするわけもなかった。そこが彼のひらめきで、どうせ客に見せる「映像」を作るのだから、その「映像」を更に自分向けにカスタマイズしたものも用意させればよい、と考えたのだ。

 まさか、ダーワルが「映像」を「撮影・編集」しているわけがありません。実はこの興行をはじめたころにはすべてをダーワル自身で行っていた。だが興行が下々の神々に受けて起動に乗るとそんな「雑用」は別の神に押しつけていた。

 押しつけられた神はヤーテーバーと呼ばれていた。それまでは特に名も力もない非力な神を見つけ出してきて「撮影・編集」を任せていた。ダーワルはもはやよく把握していないが、現在は17柱ものヤーテーバー神が働いていた。


 今日もソファにだらしなく座ってダーワルは「映像」を確認していた。仕事というよりもカウチポテトな感じだ。

 それはちょうどバーソンのところだった。

 「映像」ではバーソンが隔離されてしまった村を偵察に行ったこと。その状況が想定外に喧伝が困難なものであったこと。更に怪物の正体を明かそうとしたところが、「たまたま拾った」マジックアイテムで倒してしまったことがまとめられていた。

「なるほどね。ペナルティスキルがいいように聞いているね」

 後ろに立って付き従っている従者にいう。

「自分で倒してしまうんじゃジャーナリスト失格だ」

 ダーワルは意地悪く言った。

「それでは独裁者と同じだ。こいつはきっとずいぶんとへこんでいるに違いないな」

「さようでしょう」従者もうなずいた。「ダーワル様の与えたスキルが面白いように効果を上げています。これならお客様がたも喜ばれるのではないでしょうか」

「そこだよ。それが大切なことだ。だが「映像」の作りが甘いな。これを作った者を呼んでくれ。私が指示を出す」

 従者はうなずくと扉を開け、外に控えていた者に入室するように指示を出した。

「実はそのようなこともあろうかと控えさせておりました。これが担当のヤーテーバー神その8です」

「それはよい。すばらしいな」

 ダーワルは鷹揚にうなずいて見せた。

「さて、この「映像」を「撮影・編集」したのはお前か、No.8?」

 呼び出されたのは体の小さな・見るからにひ弱な雰囲気の神だった。長く伸びた髪まで顔は口元ぐらいしか見えない。おどおどとした様子をしている。

 ヤーテーバー神々には名前すらなく番号で呼ばれているようだ。

「は、はい」

「はい、ダーワル様。だ」従者はその神を蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされた神は床に倒れた。よろよろと起き上がると「はい、ダーワル様」

「しつけがなってないな。そんなことだから「映像」も甘いんだ。

「いいか、この「映像」ではこの転移者が失意に打ちのめされている感じがほとんど出ていないじゃないか。そこがポイントなんだぞ。そこを皆は見たいんだ」

「それはあまりにもかわいそうで...。それに「映像」としては切れのよいカットにしてあります。見応えはあるは...」

 ダーワルは鼻で笑った。「かわいそうだって? 冗談を言うな。客が楽しめなければ何の価値もないんだぞ」

 従者はダーワルの意を汲んでもう一度その神を蹴り飛ばした。

「それに切れがあるだと、No.8? 誰に向かって言っているんだ。ここでの「映像」の作り方は俺が築き上げたノウハウがあるんだ。お前はそれに従って作るんだ!」

 その神は倒れ伏したままだった。従者が足で押さえつけているのだ。

「俺の指示通りに作れ! いいな!」

 その神は床に倒れたまま小さく首を縦に振った。

 ダーワルは首を振った。「なってないな。おい、明日までにやりなおしておけ。わかったな?」

 従者が足をどけるとその神はよろよろと起き上がろうとした。だが強かに打ち据えられたからか、よろめいていた。だがダーワルもその従者も冷ややかにその様子を見ているだけだった。

 やっとその神が退室した。

「あいつの給料を30%カットだ」ダーワルは扉が閉まるか閉まらないかというタイミングで言った。

「かしこまりました。明日のでき次第では首にします」

「それがいいな。儲かっているからいくらでも雇える。使えない者は不要だ。なんだ、あれは。かわいそうだとよ」

 ダーワルは憤慨したように言う。

「どの口がそんなことを言えるんだ。あいつらは神々の道具なんだぞ。我々の興行に選ばれたのは栄誉ですらある。その生き様で一時の楽しみを神々に提供する。これは人間の生まれ持った義務だろうに。

「それにあいつらだってこれで仕事をもらっているんだ。これで稼いでいるんだ。この興行は一大イベントなのだよ」


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