第13話 オリビエの報告(2)

 バーソンが森に近づいたところからオリビエは密かにバーソンを監視していた。姿隠しの魔法をかけた上で、空を飛んで上から観察していた。

 状況は随時、音声魔法でマスターへ伝えていた。いわば実況中継だ。まるで偵察用のドローンだ。

 バーソンがオーク鬼たちのキャンプ地を発見した。

 そしてオークシャーマンに見つかって逃げ出した。

 逃げ切れないと悟ったのか、バーソンはオリビエの渡した短剣をオークたちへ向けて脅しをかけた。

「よい手立てですね。オークシャーマンなら危険だと見抜くでしょう」

 オリビエはいった。

「オーク鬼だけなら知恵も足らないので逆に効果もなかったでしょう」

 じりじりと距離が縮まりそうになったところで、オリビエは指を鳴らした。

 その直後、短剣から衝撃波が打ち出された。

 そう、短剣はオリビエの操作によって発動していたのだ。

「オークたちを殲滅しました」オリビエは報告した。

『それでいいわ、オリビエ』

 マスターの返事だ。

『バーソンが何をしたかったのかはやっぱりよくわからないけれど。ここで彼を死なせるわけにはいかない』

「これで彼は英雄視されますね」

『そうなってもらったほうがよいわね。でもわからないわ。バーソンは自分の活躍を言いふらしたりするかしら?』

「これまでの振る舞いから考えると吹聴しないと予想します」

『そうね。私もそう思うわ。まったく理解はできないけど。一体彼は何を目指しているのかしら?』

 マスターにもオリビエにもバーソンがジャーナリストを目指していることはやはりわからなかった。そんな概念自体がほとんどないからだ。この世界では力を持ったものの優位性が非常に強力になる。

 その一つの形が貴族制だし、マスターやオリビエのような魔法使いも実はそうなのだ。彼ら彼女らにしてみれば力を持って正義もなす。いわばノブレスオブリージュこそがあるべき姿だった。

 だからこそマスターはオリビエと共に神々(彼女らはダーワル神の名前を知らない)の支配から逃れることを正義の心でもって目指している。

 ただ観察の結果、バーソンが力を手に入れようとしているとか、名声を手にしようとしているとか、そういうことがないことはわかってきた。

 ただひたすらに調べるだけ。そしてそれを人々に伝えようとするが、民衆にそんな話をしたところで何も価値はない。そこが彼女らの理解の限界だった。

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