第12話 オークシャーマンとの対峙

 合計4匹のオーク鬼と1匹のオークシャーマン。まともに対峙しても勝ち目はないし、逃げ切れることもなさそうだ。

 俺はとっさにベルトに下げていた短剣を抜いた。

「死にたくなければ止まれ!」

 これ見よがしに短剣を掲げると、オークシャーマンが目をすがめた。

「ゴゴルブ!」部下に指示するように叫んだ。

 オーク鬼たちは立ち止まった。

「そうだ、それでいい」俺は冷や汗を無視して強気でいった。

「ソン、ナ、オモチャ、デ、ナントカ、ナルカ」

 オークシャーマンが人の言葉で話した。

「ムダ、ダ」

「人の言葉まで話すのか?」俺は衝撃を受けた。

「ツカ、マエタ、ニンゲン、ハナサセタ」オークシャーマンは唇をなめた。「アトハ、タベタ。ウマカッタ、ゾ」

 俺は吐き気を催したがなんとかこらえた。ここで弱みを見せたら一瞬でおしまいだ。

「ほう、そうかい。この短剣はわかっていると思うがとても危険だぞ」

 オークシャーマンは鼻で笑った。「オレタチヲ、イッペン、ニハ、ヤレナイ。アキラメロ。ブキ、ステレバ、タベナイ」

「信じられないね」

 俺は一歩下がった。

 合わせるようにオーク鬼たちも一歩前に出る。

「試してみるか?」

 俺は短剣に力を込めた。

「俺はそれでもいいんだぜ?」

 短剣を振って見せた。それで俺は牽制したつもりだった。だが突然、短剣が光った。

 そして轟音と共に強烈な衝撃波が前方に打ち出された。

「グワワワワッ!」

「グワワワワッ!」

「グワワワッ!」

 衝撃波は周辺の木々をなぎ倒し、更にオーク鬼たちを吹き飛ばし、シャーマンを地面に叩きつけた。

 更にその向こう側まで距離にして500mぐらいがなぎ払われていた。

 その威力に俺はぞっとした。「なんてこった...」明確な操作をしていないのにこんな威力が発揮されたのだ。いつ暴発するかわからないミサイルのようなものだ。それがずっとベルトに下がっていたのだ。

 オーク鬼たちの生死を確認するべきか。俺は迷った。死んでいれば問題ない。だが生き残っていたら戦わないといけない。まともにやりあってはオーク鬼1体でも勝ち目はない。

 俺は一目散に逃げ去ることに決めた。


 俺は走った。自衛隊の訓練でも何度も長距離を走ったことはある。だがこれほど命の危険を感じながら走ったことはなかった。

 手の中にある短剣も気がかりだった。捨ててしまいたいが、捨てるという動作にも危険があるかも知れない。だからといって立ち止まって静かにそっとどこかに置くという時間もない。

 更に走って、もう走れないというところで街道へ出た。

 街道はまったく安全ではない。そもそももう人間は誰も通らないのだ。野生動物などに襲われる危険しかない。だが俺の緊張の糸はそこで切れてしまった。

 俺はよろめくように地面にしゃがみ込むとそのまま大の字に倒れた。そして意識を手放していた。短剣はもったままだった。

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