第11話 力不足のジャーナリストはもう一度森へ向かう

 俺は一念発起してあの村の窮状をこの村で人々に訴えかけることにした。

 だがそもそも方法がない。マスメディアがあるわけでもないし、吟遊詩人が飛びついてくれるようなネタでもない。そもそも知り合いすらほとんどない。だがそれこそがジャーナリストだと考えたのだ。

「決心したもののどうにもならないな」

 俺は広場の噴水の縁に腰掛けてぼんやりとしていた。

 町はいたって平和だ。この中にももしかしたらあの村の出身者がいて、諦めてしまっているのかもしれない。だがそんなそぶりは見せずに日々の暮らしに勤しんでいる。

 それがこの世界でのまっとうな生き方だろう。そうでないと少しは豊かなこの村であっても食べていくのは難しいはずだ。

 ビラを配るにもそんな印刷技術はない。

 だが人々に理解してもらって、その先は人々が考えるべきなのだ。

 とはいえそれができないならば....。

「交易ができるように戻ればいいんだ」


 俺は再び村を出て森へ向かった。今度は街道をずっと行くのではなく、途中で森へと踏み込むつもりだ。命がけだ。足がすくまなかったとはいえない。だが、このままではジャーナリストになりたいという夢は潰えてしまう。

 またオリビエが出てくるのではと期待したが、それはなかった。オリビエが出てきたら何か聞き出せるのではないかとも考えていたのだが。

 街道を離れて調査を続けていると、馬車の残骸を見つけることができた。そのあたりから何かを引きずっていったような跡も見つかった。これをたどっていけば、怪物の正体にたどり着ける可能性は高そうだ。

 まっすぐに辿っていったのではその何かと正面衝突する危険性もある。俺は離れたところを進み、ときどき跡を確認するようにした。

 そうやって1日半進んだところで、俺はオーク鬼たちを見つけ出した。


 オーク鬼はまさに「鬼」だ。人間よりも大きな体格と額の角が特徴だ。知能もあるがあまり高くはない。実際に俺から見えるオーク鬼は粗末な布の服を着ているだけだ。武器も棍棒しか見当たらない。

 オーク鬼たちはテントを張っていた。これには少し驚いたが、おそらくは襲撃した人間のものを奪ったのだろう。きちんと張れていると言うこともでもない。

「これが怪物の正体か」

 俺は身を低くして観察を続けた。オーク鬼の数をしっかりと確認してから戻るつもりだった。そうすれば戦力がかなり正確に推し量れるから、討伐のための兵力も用意しやすいはずだ。

 だがテントから出てきたオーク鬼を見て俺は驚きを隠せなかった。

 そのオーク鬼は他のオーク鬼よりもずっとよい服を着ていた。更に装飾のある杖を手にしていた。

「まさか魔法使いか」

 以前聞いた話にオーク鬼の精霊使い(シャーマン)の話があった。精霊使いは自然界にいるという精霊を使役する魔法使いだ。当然、知能も高いはずだ。実際、ここのリーダーらしく、他のオーク鬼に指示を出している様子が見られた。

 これはとんでもなく危険性が増した。オーク鬼だけであれば遠距離からの攻撃を加えてから、装備を調えた接近戦で十分に戦えるだろう。これなら人数さえいれば、田舎の兵隊でもナントカできる先方だ。

 だが魔法使いがいれば話が違う。いわば歩兵隊に戦車がいるようなものだ。生半可な遠距離攻撃は効果が薄いだろうし、逆に遠距離攻撃で反撃される恐れがある。こちらにも魔法戦力がないと消耗の激しい戦闘になってしまうはずだ。

 これでは窮状を訴えかけても兵力は動かせないかも知れない。危険性が高すぎる。おそらくは領主に直訴し、領主の兵力を差し向けてもらうことになるだろう。だがそれだとかなりの期間を要する。緊急性がないのが更にいたい。このままでは来年に出兵してもらえれば御の字と言うこともあるかも知れない。

 とはいえこの情報を持ち帰って村長に伝えれば何らかの動きを起こせるだろう。

 そう考えた俺は静かに立ち去ろうとした。

 誓っていい。何も音は立てていない。

 だがオークの精霊使いは不意にこちらを見た。

「ゴワゼット!」叫んだ。すると他のオーク鬼たちが一斉に武器を手にした。

 そしてこちらへ向かってきた。

「なんでだ!」俺は走り出した。



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