第6話 胴元神ダーワルの日常業務
賭けの会場でMCをしていた胴元神ダーワルは執務室にいた。といってもソファにのんびりと腰掛け、大画面テレビにチャンネルを向けている。
傍らには秘書らしき年齢不詳の男性スタッフがペンを片手に立っている。
「次は?」
ダーワルがいうと秘書が手元の資料をめくりながら答える。「第22216世界です。先日、12人目のぎせい...英雄候補を送り込んだところです」
「うーん、そうだっけ? どんなだったかな」
ダーワルは手元のチャンネルのボタンを押しながら言う。
すると画面にはバーソンが転移した後の軌跡が映し出された。腕利きのカメラマンと編集スタッフがいるかのように端的に整理された映像がバーソンの身に起こったことを次々とわかりやすく映していく。
「なるほど、なるほど」
ダーワルはもっともらしく頷きながら言う。
「いや、こうやって派遣した英雄候補たちを一人一人確認するのはたいへんだねぇ」
「胴元の業務で最も重要なものと考えます」秘書は神経質そうに言う。「ここは真面目に業務を遂行していただかないと後でクレームが殺到します」
「わかってるよぉ。ちょっとふざけただけさ」
ダーワルはソファにもたれかかった。
「仕事の手を抜くと言うことじゃないさ。彼のぺ...スキルは何だって?」
「第3位B種です」
「それはあれだね、最も望むことが意に反してしまうという逆転スキルだ」
ダーワルは大げさに嘆いて見せた。
「なーんてことだ。彼は心に決めた大切なことを達成しようとしても、絶対に失敗する。これは悲劇じゃないか。そうじゃないかい?」
「...」秘書は何も言わなかった。
「なんだい? インチキだって言いたいんだろう? そりゃそうさ。ペナルティ...スキルは面白くなくちゃお客様も楽しめない。いいかい、これはただの賭けじゃないんだ。人生を鑑賞する芸術なんだよ」
「選ばれた当人にとってはいい迷惑ですな」
「それが人生というものだろう? 思うようにはいかないものだ。彼の出身の地球にはヤーテーブとかいう映像配信サービスがあるんだそうだよ。そこには様々なコンテンツがあって皆がそれを視聴するんだ。一大産業になったよ。中には悲劇的なものもある。それが不人気なわけじゃない。それと同じさ。よいものもあれば悪いものもある。それぞれ価値があるんだ」
「さようで」秘書はうなずいた。「それで現況をどのように評価しますか?」
「そうだね。ペナルティがさっそく効果を発揮したようじゃないか。これは最速とは言わないけれども、かなり早いんじゃないかな。その点を強調すると掛け率が面白い方へ影響が出るだろう」
「かしこまりました。その点を強調して宣伝するように伝えます。それでは次は...」
「おいおい、休憩もなしにまた次かい?」ダーワルはふざけて嘆いて見せた。「胴元の仕事もたいへんだ」
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