第2話 異世界での暮らしをはじめた
次に気づいたときには見知らぬ村のそばに立っていた。
「あの部下、死ななかったんだな」
俺は人ごとのようにつぶやいた。その口から発せられた言葉は日本語じゃなかった。どうやらこれがこの世界の言葉らしい。耳を澄ませると聞こえてくる話し声も理解できた。「これが言葉理解スキルだな。何はともあれ助かる」
自分を見下ろすと服装は村人と似たようなものになっているが、体は元のままのようだ。せっかく自衛隊まで入って鍛えた体だ。異世界でもこれを続けられるのはいい。異世界転生で一から鍛えなくてはならないのではたいへんだ。
いつのまにか背負っていた袋には若干?のコインと食料、ナイフが入っていた。
「これだけか。後はペナルティスキルといっていたな。何をペナルティとするかわからないし、考えてもしようがない。
「どうなるんだ? まぁいい。わからないことを考えている余裕もなさそうだ」
そう言って村へと歩いて行った。そしてそこでの感想が冒頭の
「なんてひどい暮らしぶりなんだ」
だった。
村を歩いている人々の表情は一様に暗く生気がない。身なりもぼろぼろであった。
村のメインストリートと思われる街道沿いの店でもほとんど商品も並んでいない。以前は栄えていたのだろうが、その名残もない。
異世界転移させられるほどだ。この世界は魔王か災害か何かの危機にさらされているのだろうか。
何にしても自分の生活を始めないとならない。宿らしい建物を見つけて入ってみた。受付らしきカウンターで店番をしていた子どもがいた。
「いらっしゃい」元気な声を出そうとしているようだが、暗い雰囲気は隠し切れてはいない。
「あぁ。幾らだい?」
「一泊銅貨8枚。夕食付きなら12枚」
「銅貨12枚ね」
俺は背負い袋に入っていたコインから銀コインを取り出した。
「これで」
貨幣価値はわからない。しかし大の大人がコインがわからないでは怪しまれるだろう。足りなければ何か言われるだろうし、足りればおつりが出てくるだろう。
予想通り。子どもはおつりに銅貨11枚を出してきた。銀貨=銅貨23枚のようだ。ずいぶんと切りが悪い。いや、よく見ると銅貨は違う種類が混じっていた。後で調べよう。
「部屋は3階の3号室、鍵はこれ」
こどもはおつりの次に木片を出した。いくつかの溝が彫ってある。和風ファミレスの靴箱のあれと同じだ。これでは鍵といっても大した安全性はないだろう。
「ありがとう」俺はそれを受け取って近くの階段を上がった。
後でわかったことだが、安宿としてはこの世界では一泊8枚は高い方だった。領主がかける税金が高いせいで、物価がアンバランスに上がっていたのだ。
部屋に入ってかんぬきをかけ、ベッドに腰掛けてコインを確認した。
手持ちは銀貨が9枚とおつりでもらった銅貨だけだ。銅貨は1枚だけ少し大きくて「10」と書いてあった。どうやらおつりは銅貨20枚分だったらしい。銀貨=銅貨32枚だ。コンピューター好きなら切りがよい。そもそもコンピューターがありそうな世界でもないが...。
「これだとあまり長くは暮らせないな。急いで稼ぐ必要がある」
自衛隊でトレーニングを受けているので森でのサバイバルも多少はできると思うが、いかんせん道具もなければ知識も足らない。この世界の動植物が地球と同じならまだいいが、とてもそうではなさそうだ。村で見かけた馬?は明らかに馬じゃなかった。生き物に特に詳しいわけじゃないが、地球の馬に足は6本あるのはいないだろう。そうでなくても不衛生なら虫に一かみされて人生が終わる危険性も高い。こっちの方がはるかに危険性が高いとさえ言える。
戦場での死亡要因は戦闘だけではないのだ。むしろ戦闘以外の要因の方が見えにくく、種類も様々にあって知識がなければ危険性が高いと考えることもできる。
「それにしてもひどい暮らしぶりだな」
窓を開けて村を見下ろす。やはりどこも活気がない。
しかし、遠くに見えた屋敷はずいぶんと羽振りが良さそうだ。
「お? これは怪しいな」
ジャーナリスト希望だった学生時代を少し思い出した。
「ちょっと探ってみるか」
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