異世界転移したけどジャーナリストになりたい!~異世界転移は胴元神の興行。加護は言語理解だけでその対価にペナルティ付与されました~

ホークピーク

第1話 異世界転移はペナルティつきで始まりました

「なんてひどい暮らしぶりなんだ」

 俺は村の様子を見てつぶやいた。

「異世界といってもこれはないだろう?」

 俺は本当に異世界への転移を果たしたらしい。


 もともと俺は学生時代にジャーナリストを目指していた。

 リアリストには幼稚と思われるだろうが「隠された真実を暴いて人々に伝える」というジャーナリストに憧れていたのだ。

 しかしジャーナリストになるには準備不足だったこともあり新聞社・TV局への就活はことごとく全滅。気づいたときには第2希望の会社の採用もすべて終わっていた。

 今にして思えばジャーナリストでなくても、その志しを活かした就職先は他にもあっただろう。だが当時の俺にはそんな機転も見聞もなかった。

「いいねぇ、君。その体格!」

 そんな失意の中のある日。就職課担当のおじさんに言われるがままに参加した説明会で、なぜか自衛隊の採用担当者に気に入られた。なすがままに入隊試験を受け、俺は晴れて自衛官になった。

 戦場○○といったジャーナリストがTVを賑わせていたこともあったので、ジャーナリストにはどんな場所にも行って過ごせる体力が必要と体を鍛えていたのがよかったんだろう。

 自衛隊での暮らしにも大きな不満もなかった。自己正当化としては正義を守るという意味では同じだという割り切りをしていた。

 体力と割り切りが奏効したのか自衛隊ではまずまず早期に昇進し、部下を育成する立場になった。

 そして地球での平凡な暮らしの最後の日。俺は新人に手榴弾投擲の訓練をしていた。

「そりゃいかん!」

 手榴弾投擲訓練で部下がピンを抜いた手榴弾を慌てて手前に落としてしまった。落ち着いて拾えば問題ない。ところがさらに蹴飛ばしてしまい中途半端に遠いところへ転がっていった。これでは何をするにも間に合いそうにない。

「うぉぉぉぉぉっ!!!」

 俺も興奮していたんだろう。部下をかばって爆風を一身に受けていた...。


「はい、それでは次。第22216世界への転移!」

 とてつもない痛みとともに意識を失った。その後どれぐらい経過したのだろうか。気づくと俺はごてごてに派手なステージのようなところに立っていた。宝くじの当選発表会と競りの会場が混ぜこぜになったようなところだった。

 ステージの前には多数の「客」が座っている。ディナーショーのようだ。客の服装はお世辞にも上品とは言えない。成金趣味だったり、アートっぽい何かだったり。

 ステージの真ん中にある巨大スクリーンの横に俺は立っていた。反対側にはこれまた派手な衣装のMCらしき人物がマイクを持って叫んでいる。

「転移に伴う言語理解スキルを付与。これは必須ですよね?」

 俺は意識もしていないのにうなずいていた。何かに操られているようだった。

「はい、決まった! それではその代金として第3位ペナルティも付与されます!」

 MC(ということにする)が腕を上げるとスクリーンに回転盤が表示された。

 俺はとっさに動こうとするがまったく体が動かない。金縛りにあっているようだ(俺は生前?に金縛りにあった経験はないが)。

「スタート!」

 回転盤が回り始める。

 客席から様々な声が上がる。

「F種! F種!」

「B種! Bだ!」

「QQ種!」

 徐々にスピードが落ち、あるところで止まった。

「おぉっと、これは!」

 MCはまったくスクリーンも見ずに叫び続けている。

「Bですね!」

 観客席から歓声が上がる。

「久しぶりのB種です!」

 どう見ても茶番だ。やらせもいいところだ。俺はなんとか動こうとするがぴくりとも動かない。唯一首だけが動かせるので、MCを睨み付ける。

「説明の順番が逆になってしまいましたが、ま、問題ないでしょ。

「あなたは地球で死亡しました。はい、ご愁傷様です。これから異世界へ転移します。新しい名前はバーソンです。日本の方だし異世界転移。意味はわかりますよね?」

 MCは流暢に続けた。

「あ? 加護とかスキルとか期待しました? しましたね?」

 悪い笑みを浮かべる。客席からも嘲笑が浴びせられる。

「はい、言語理解スキルは与えられています! さすがに現地の言葉もわからないでは路頭に迷うことすらできませんからね。この言語理解スキルはすごいんですよ? なんと、読み書き・会話いずれもできるんです! でも、ただではありません。先ほど契約が成立したようにね」

 MCは大げさに嘆いて見せた。意識もせずにうなずいたので契約だといいたいらしい。だが抗議の意を示そうにも動けないし、声も出ない。

「たいへん残念ですが、その対価分のペナルティも付与されます。今、第3位B種と決まりました! これは久しぶりのことで、皆さん、たいへん喜ばれているのですよ?!」

 観客席から大きな拍手が起こった。

「それでは」

 MCはもう俺のほうはまったく気にしていない。いや、最初から俺の意思など無関係だ。

「オッズを公開します!」

 スクリーンになにやら表のようなものが表示される。

「5年以内に死亡・大成もしないが1.2倍。蛮勇をふるって失敗するパターンね。

「大成はしないが寿命である50年後まで生存はするが5倍。呪い、じゃなかったペナルティスキルが何にかかっているか気づいて、おとなしくしていれば生き延びれるだろうしね。

「そして! 寿命を全うしつつ大成するが27倍だぁ!」

 客席からブーイングが巻き起こる。

「いやいや、それほど悪いレートではありませんよ?」

 MCは笑顔のまま観客をなだめるような仕草をする。

「これでも彼は自衛隊、皆さんご存じのように日本の軍隊のようなものです。その自衛隊の出身で、それも同年代では出世頭なんです! えぇえぇ、それはもう彼をスカウトするのには苦労したのですよ。地球の神々の目をかいくぐりましてね、なんとか工作員を潜り込ませました!

「彼ぐらいの人物になると神々も引き抜かれないように注意を払っているわけです。そしてもろとも自爆しようとしたのですが、なんと! 彼はその工作員を救って、自分だけが死んだのです!」

 客席からどよめきが起こる。

「そうでしょう、そうでしょう。彼はまさに英雄、正真正銘のヒーローなのです! とはいえ種族は平凡な人間です。ペナルティスキルがあってはそうそう生存率は高く計算されません。オッズも妥当と言うことです!」

 MCは断言するように腕を振り下ろした。

「ですが、皆さん、そこが楽しいわけですよね? 彼がどのように生き延びようとするか。その様を見てみたいではありませんか!」

 MCは盛り上げに盛り上げた。

「では、いってらっしゃい!」

 俺は再び意識が遠のいてきた。あいつだけは許せない。MCの顔を忘れないようにじっとにらんだ。

「さてこの私、ダーワルの司会で行って参りました異世界転移ショーも次で最後...」

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