第4話

 いそいそと朝ごはんとお弁当の用意をしているとガチャりと玄関の音がした。



「ただいまぁ〜」


「おかえり。また朝帰り?」



「うーん。試薬が纏まらなくてねぇ~」


「いつまでもそんな生活してたら、本気で身体壊すよ?」



「大丈夫大丈夫。私には真理まりちゃんと言う強い味方がいるから、ね!」



 ちなみに真理まりちゃんとは、村瀬むらせさんの事だ。



「お味噌汁、あたためなおしてるから飲むでしょ?」


「いつもすまないねぇ〜」



「それは村瀬さんに言って」


「はは、そりゃそうだ」



「お父さんは?」


「さあ?ニューヨークに出張とか言ってたような?」



「えっ?私、それ聞いてないよ?」


「あはぁ〜、めんごめんご!」



「もう、村瀬さんにお父さんの分も作って貰っちゃたよ」


「大丈夫大丈夫、私が後で美味しく頂くから」



「あっそう」


「む〜、真陽まおちゃぁ〜ん、怒らんといてぇ〜」



「怒ってないよ」


「嘘ばっかし……あれ?お弁当?」



「うん。村瀬むらせさんにお料理ならったから、自分で作るようにしたの」


「へぇ〜。どうやら真陽まおちゃんには、私の料理下手べたは感染しなかったのね」



「え?料理下手べたって伝染うつるの?と言うか誰かに感染したの!?」


「It's a 薬師ジョークよ!」



「……はぁ~、早朝の徹夜ハイテンションには、ついていけないわ」


「何よぉ〜、真陽まおちゃんったらノリ悪いわねぇ〜。ん?、あれ?、2人分?、お母さんの?」



「何でよ。お母さんは村瀬さんのご飯があるでしょ」


「そ、そんなぁ~、娘の記念すべき初手料理も頂けないなんてぇ〜。ここは、なんて無慈悲な世界線なの~」



「いや、初では無いし、何?世界線って…」


「でも……そっかぁ〜。真陽まおちゃんにも、ついにお弁当作ってあげる様な彼氏君かれしくんが出来たかぁ〜。親は無くとも子は育つと言うものの、一抹の寂しさもあるけど、お母さんは、とっても嬉しいわ。ちゃんとお母さんにも彼氏君かれしくん、紹介してね。真陽まおちゃん」



 そう言って、ほろりと涙を拭う振りをする母親に、なんでやねんとツッコミを入れたい!



「女子高だし!あずさちゃんのだし!」


「ええー、なぁんだぁ〜、つまんないの」



「つまんなくはないでしょ。それに彼氏なんて作ったら、お父さんが激ギレするのが目に見える」



「あ〜、確かに。勝人さん、何だかんだ言っても真陽まおちゃん大好きだしねぇ〜。勿論、お母さんも真陽まおちゃんの事が、大・大・大・好きよ〜?」


「何故に最後、疑問形になった!…はぁ~、もう、ほら、さっさとお味噌汁飲んで寝なさいよ。起きたら村瀬さんの冷蔵庫の作り置き、チンして食べてね」



「もう〜、冗談よ~。ホントのホントに心の底から愛してるわよ真陽まおちゃん~!」


「はいはい、抱きつかない!ちゅ〜もしない!もう!」



 絡みついてくる母を無理やり引き剥がし、こうして、立花家の朝は何時ものように過ぎて行くのだった。



 ◇

 ・

 ◇



「おはよう、!」


「おはようございます。あずちゃん」



「で?で?昨日は何処まで行ったの?」


「昨日はエリアGの…」



「はい!アウトォーー」


「何がよ?」



「お弁当を頂きます」


「はいはい、言ってなさい」



「ええ〜、そんな殺生なぁ〜」


「はい」



 苦笑しながら、あずちゃんにお弁当を渡す。



「え?」


「言われなくても、ちゃんと用意してるわよ」



「ま、真陽まおぉぉ〜!愛してるぅぅ〜!」


「もう!あずちゃん!抱きつかない!もう!ちゅ〜もしないの!」



「はぁ〜。こんな健気けなげな可愛い子が、何でもかんでもしてくれるとか…お父さんは真陽まおの将来が心配だよ!」


「誰が、お父さんよ!」



「ちゃんと責任取って、真陽まおをお嫁に貰うから、安心して!」


「何でよ!安心要素、一つも無いよ!」



 あずちゃんとの私の朝は、始まったばかりだ。


 なんで今日は、こんなに朝から疲れる事ばかりなんだろう。



 変なデジャブ感だけは満載だし!


 本当に勘弁して!

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