第2話
「お客さん、彼女にもう一度話し合うのは考えました?」
「僕がフラれたんですもの。自分に追い討ちをかけるようなことはできません。」
そのとき、初々しい男女がお店に入ってきました。
「お客さん、あれ見てどうです?」
マスターはそのカップルを見るよう促しました。
「自分もあんなふうになるはずだったのになと思うと哀しいです。」
「彼女はあなたのところにやってきそうですか?」
「いいえ」
二人の間に静かな時間が流れました。
「ならば、違う女性と恋愛をすれば良いじゃないですか。ほら、あの子とか。いい子ですよ」
マスターは角の席にひとり座っているメガネをかけた女性をチラリと見ました。
「好きだった人を忘れきれていないのに他の女性と恋愛をするのは失礼ではないでしょうか。」
紳士は紳士らしく、誠実な目で訴えていました。
「ならば、特別にこれを。」
マスターが出してきたのは、通常は処方箋がないと貰えない「記憶操作剤」を含んだワインでした。一定の量まで薄めたものはメンタルヘルスバーでのみ合法的に売られているのです。
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