失恋拗症

雨野瀧

第1話

「これは、鬱ですか。」

路地裏にあるメンタルヘルスバーというところを、お客の紳士が訪ねました。

「いいえ、鬱ではないでしょう。しかし失恋拗症しつれんこじらせしょうがありますよ。」

注文に応え真っ赤なワインを空けながら、マスターはにこにこして答えました。


 今日は、九月の終わり。

暑すぎた夏もいつのまにか死んだようです。女性客は、この時期しか使い道のない七分袖のブラウスを着ていました。

「へぇ、失恋拗症てのは、こんなに煩わしいものですか。」

「最近の若者に多いのです。昨日も似たような悩みを抱えた女の子が来ましたよ。よほど思いつめていたのでしょう」

鳩時計が19時を知らせるように鳴りました。

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