第27話 あれから一週間が経ちました
────前書き(本編は▼の後から)────
前話から大分時が経ってしまいましたが、ぼちぼち再開していきたいと思います。作者が設定を忘れているところもあると思うので、おかしなところがあれば遠慮せずにご指摘ください。
▼▼▼▼▼
「るり姉、領土戦に参加するんだっけ?」
制服姿の琥珀が、立派なイチゴパフェを頬張りながら聞いてきます。
私はコーヒーカップをテーブルの上に置き、
「ええ。セナさんはそうおっしゃっていました。確か、東部の小さな村に攻め込むのだとか」
《HIDE-AND-SEEK ONLINE》というゲームは、ハイド陣営とシーク陣営が直接対立する形を取っていて、どちらの陣営ももう一方の陣営を完全に滅ぼして世界を支配することを最終目標としている、そうです。
といっても、遊んでいる人たちが何度も生き返ることができる以上、完全に滅ぼすことはできないので、領土を取り合う、という形をとっているようですが。
「いいなあー。私もハイドにすればよかったかなあ」
「何故ですか? 琥珀と同じ陣営に入れなかったのは、完全に私の責任です。既にシーク陣営に所属していた琥珀がそのように考える必要はありません」
「でもぉ、るり姉と一緒に遊びたいのにぃ」
琥珀は不満そうな顔をしながらパフェの最後の一口を平らげました。
「なら、一緒に遊べばいいのではないですか?」
「それができないの! いくら調べてもさあ、特殊なイベント以外じゃ別陣営のプレイヤー同士では遊べないの! いや、できないことはないんだけど、リスクが高くて……」
「ああ、二人だけならまだしも、遊んでいる間に誰かに見つかってしまうと混乱を招いてしまうのでしたね」
ハイドとシークは基本的に争っている体なので、見つかると誤ってどちらかが殺されてしまう可能性があります。
「このゲーム、デスペナきついからなあ」
「デスペナ?」
「あれ、セナさんに教わらなかった? デスペナルティのことだよ。死ぬとアイテムとか没収されちゃうの。このゲームの場合、その時着けてた装備は全部ロストしちゃうし、経験値も没収されちゃうから……」
「なるほど。私も琥珀を守り切れる自信はありませんし、不意打ちで殺されたらどうしようもありませんからね……」
「やばい、るり姉がかっこいい」
琥珀が突然きらきらした眼差しで見つめてきます。
「どうしました?」
「ん、鈍感なるり姉もまたかわいい」
先程から琥珀の発言の意図が汲み切れず首を傾げます。
「やっぱりるり姉を一人私の知らない人のそばに置きたくないよー! やっぱりサブ垢作るしかないかな……」
琥珀はぶつぶつと言いながら空になったパフェカップの中でスプーンを回しています。
「他にも何かスイーツ頼みますか?」
「ううん。もう満足! ありがとう、るり姉! 私そろそろ行かなきゃ!」
琥珀が勢い良く立ち上がったので腕時計を確認すると、16時前を指していました。
「ああ、これからお手伝いでしたね」
琥珀は最近、お金が欲しいとの理由で知り合いのお店のお手伝いをしてお駄賃を貰っているのだそうです。
「うん! 稼いでくるよー」
「大丈夫ですか? 無理して働かなくても、琥珀の欲しいものなら私が買いますよ?」
「そんなにるり姉には頼れないって。それに、自分のお金で買いたいものがあるの!」
「そうですか。ならもう何も言いませんが」
「じゃあ、行ってくるね。ごちそうさま! また今週末遊びに行くから!」
「楽しみにしていますね。行ってらっしゃい」
私は手を振り、店を出ていく琥珀の背中を見送ります。
「さて、明日は学校ですし、その前に少しログインしておきますか」
と、私はパスタ2点、コーヒー1点、ミルクティー1点、パフェ2点の載った伝票を手に持って会計へと向かいます。
「それにしても今日の琥珀は控えめでしたね。午前に部活があったそうですから、もう少し食べると思っていたのですが」
▼▼▼▼▼
「お、やっときたか」
宿屋の階段を降りると、エントランスの椅子に黒髪の吸血鬼──セナさんの姿がありました。
テーブルの上で銃の手入れをしているようです。隣には誰もいません。
「もしかして、待たせてしまっていましたか?」
「いや、別に待ってはない。いくつかクエスト終わらせて休憩がてら来てみただけだ」
「まさかー! ここ一週間、セナちゃんは何度もここに来ては無駄な銃の手入れをし、時間を潰していますよ! これがどうして待っていないというのですか?」
と、突然目の前に黄緑頭の妖精さん──カクレさんが現れ、セナさんに人差し指を向けてニマニマと笑っています。
「うっせ! ここが静かでちょうどいいだけだよ!」
「ほんとですか~?」
「まあまあ。折角タイミングよく会えたのですし、色々とご教授してくださいませんか? あの後、一度もログインできていないもので……」
「あの後って──トレジャーイベントか。じゃあ、金が増えた以外には特にイベント前とステータスは変わってないな?」
「ええ、おそらく」
言われたので、念のため私の状態を確認してみます。
確か、〈STATUS〉を押せばいいのでしたね。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△
るり Lv.11
HP 120/120 SP 60/60
性別:女 種族:エルフ
陣営:ハイド
殺人回数:23 死亡回数:0
貢献度:23
ランキング:7651位
STR:10 AGI:15 VIT:0
MND:0 INT:0 DEX:10 LUK:0
所持スキル:
〈短剣術〉Lv.4〈隠蔽〉Lv.3〈隠密〉Lv.3(霧中視野〉Lv.1〈瞬殺〉Lv.4〈聞き耳〉Lv.2〈暗視〉Lv.2〈採集〉Lv.1〈毒生成〉Lv.1
所持称号:
『暗殺者』気付かれずに殺人をした者に贈られる称号。セットすると〈隠密〉スキルのレベルが上がりやすくなる。
『トップトレジャーハンター』「第1回大金獲得! 目指せ! トップトレジャーハンター!」優勝者に送られる称号。セットすると〈トレジャーハント〉スキルが上がりやすくなる。また宝箱開封時、レアアイテムの出現率が2%アップする。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△
いつの間にか数字が増えているようですが、カクレさんがやってくれたのでしょう。
私にはよく分からないのでありがたいところです。
「うわっ。防御系全然上げてないじゃん」
「VITとMNDが防御系でしたっけ? カクレさん、意図を聞いても?」
「だってぇ~、このゲーム、プレイヤースキルが命ですよ? 当たったら駄目なら避ければいいだけ! そう思いませんか?」
「コイツ本当にAIか?」
「ちょっと! 疑わないでくださいよ! よく考えてもみてください。るりさんはすばやさ命の瞬殺アタッカーです。攻撃が当たる前に全員殺してしまうのですから、上げるだけ無駄じゃありませんか? 本人にPSがないのならまだしも、るりさんは現状トップクラスの反応速度と判断力を持っていますし」
「まあ、それはそう、か」
「領土戦にはいつから取り掛かるのですか? 私の他にも参加する人はいますか?」
「下手にやって死んだらおしまいだし、やるのはあんたのレベルが15超えてからだな。他のやつは考えてない。正直、欲しいっちゃ欲しいけど」
そうですよね。
実際、イベントで私の未熟さは実感させられましたし、レベルはもっと上げておく必要があるでしょう。
村を攻めるのでしたら、ある程度人数は必要でしょう。いくら何でも、二人だけでというのは無謀です。
「焼き討ちなら簡単だとは思いますが」
「今さらっとむごいことを言いましたね!?」
「ところで、領土戦の決着はどうつくのですか? お相手方の
「いや。そのどっちでもない」
「おや?」
「村のとある場所に枝を突き刺すんだ。突き刺した瞬間、その村はハイド陣営になって、NPCが住み着くようになる。あーいや、後者とも言えたな。何せ、そこがハイドの領地になった瞬間、元々住んでたやつらは全員死ぬんだから」
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