第26話 大団円……ですか?

「──はぁ!? アイツやばすぎるだろ……!」


 俺は舌打ちし、スコープ越しにるりの姿を見た。

 火の鳥につかまったるりは、真っ直ぐに俺のいる所に向かってきている。

 本人を狙って撃ちたいところだが、るりの短剣を持つ手が空いている。

 多分俺の弾は剣で防がれてしまうはずだ。本来、銃弾を見て弾き返すなんて、あってはならないことだが。


 あの女のことだ。ゲームの想定を軽々と超えるプレイをしてくるのは、今までの付き合いで重々承知している。


「くっそ」


 俺は舌打ちをしてもう一度、引き金を引いた。

 今度の狙いもアンバーだ。さっきは魔法で防がれたが、流石にもう抵抗する術はない。

 アンバーを容赦ない弾丸が貫き、そのHPを空にした。


「琥珀──!?」


「っし」


 腕は鈍ってない。なら、今度こそるりにも当たるはず。

 防がれるんなら、防げないとこに撃てばいい。

 それでも防がれるもんなら、近づいてきたとこを撃てばいい。

 それにあいつも、妹が撃たれたことで動揺している。


「隙だらけだぜ」


 呟いて、俺はるり目がけて引き金を引いた。

 弾丸は直進して、るりの左脚に当たった。

 るりのHPがどんどん削れていく。

 これでるりが火の鳥から手を離せば、落下ダメージで死ぬはずだ。


 むしろ、そのまま全部消し飛んでくれ──。


 そう思っていると、突然景色が星空に変わった。

 くるくると視界が回り、星が残像になって、俺は思わずきれいだと思ってしまった。


 ──いやいや、おかしいだろ。


 さっきから確かに空は暗くなってたし、星はきれいだったが、俺は上を向いた記憶はない。

 それに、何だか変な感じがする。

 何か、大切なものを失ったような──。


「琥珀を殺すなんて……許せません。あなた、本当に人間ですか?」


 そう言って俺を見下ろすのは、片足をなくしたるりだった。

 背後には、俺の女の体が倒れている。頭をなくした状態で。

 俺は目を見開いてるりの顔を見た。

 るりの頭の上のHPバーは、死ぬか死なないかのギリギリで色が残っている。


 そして、るりの顔にはいつも湛えられている微笑はなかった。

 見下ろしてくる左右色違いの瞳にはは、いつもの感情が読めない怪しい感じのものではなく、もっと分かりやすいものが浮かんでいる。


 言葉と顔が合ってないとはまさにこのことだ。

 怒っているようなふりをして、るりの顔は恍惚としていた。顔は赤く、唇は溢れ出てくる笑みを抑えられていない。


「──なんだ。あんた、まともに笑えるんじゃないか」


「……そうですか? 私いま、とても気分が良くて仕方がなくて……。あぁ、これが『楽しい』ということなのですね──」


 俺はぎょっとしてるりを見た。

 るりの目は相変わらず焦点が定まっていない。

 だが、それがフリで言ってるんじゃないことは分かった。


「ありがとうございます、セナさん。この大会に誘ってくれて──。そして、傷つけてくれて、殺してくれて、殺されてくれて、ありがとうございます」


「──やっぱ、あんたバケモンだわ」


 言い終わると同時に、俺のアバターは光となって散った。



▼▼▼▼▼



 セナさんが消えてしまいました。

 消えるまでにやけに時間がかかった気がしますが、話すことができてよかったです。

 お礼を伝えたいと、思っていましたから。


「ふぅ。これで終わりだと思うのですが……」


 おそらく人はもう残っていないと思います。

 いたのなら、私たちは漁夫の利でもうとっくに死んでいたでしょう。

 なので、後はいつもの所に戻るだけのはずなのですが、どうやるのでしょうか。

 そう言えば、始まる前にカクレさんがなにか言っていましたね。

 確か、死んだ後は待機場所に戻るか他の人が戦っているのを見るか選ぶことができる、と。

 しかし、私は死んでいないので参考になりませんね。


 困っていると、突然私の前に文字が現れました。

 『Congratulations!』と書いてありますね。

 下には、私の名前が書いてあります。

 これは何でしょうか。


 すると、今度は大きな声が辺りに響きました。


「みなさーん! おつかれさまでーす!」


 空には、緑色の髪の女の子──カクレさんがいます。

 小さな妖精さんのはずですが、この大会が始まる前同様、大きいですね。

 といっても、カクレさんが映っているのが大きなテレビ画面のようなものなので、全身が映っている訳ではないのですが。


「第一回『大金獲得! 目指せ! トップトレジャーハンター!』の優勝者はー、合計267個のお宝を獲得した、《るり》さんの勝利です!」


「お宝?」


 言われてみれば、このゲームは人を殺すのではなくお宝集めが大事なゲームでしたね。

 すっかり忘れていました。多分、セナさんが片っ端から人を殺せと言ったからですね。

 ですが、私はお宝を集めた記憶がありません。なのにどうして一番集めたことになるのでしょうか。


「あれ? 優勝者さんはイベントのルールを忘れていらっしゃるようですね? ではでは、教えて差し上げましょう! このイベントで人を殺せば、殺した相手が持っていた宝を奪うことができるのです! 本当は制限時間いっぱいになって、その時のお宝の数を数えて優勝者を決める予定だったのですが、思いの外制限時間が長かったようです! え~それはひどいって? 次を期待してくださいよ、みなさん! まだサービスを開始したばかりのゲームなんてすから! このイベントもこれが初めてですし! ささ、優勝者が戻ってきますよー」


 おや、景色が薄れてきました。

 少し経つと、私は大会が始まる前に見た待機場にいました。

 周りでは、多くの人が私を見て拍手をしています。


「るり姉! 戻ってきた! おめでと!」


「るりさん、おめでとうございます」


「お、バケモンが戻ってきた」


「あなた、るりっていうの」


「るりさーんっ! 私と戦いましょう!」


 あら、知っているお顔が沢山ありますね。しかし、挨拶をする前に、赤髪の女性、クロエさんに抱きつかれてしまいました。


「すみません、クロエさん、離してもらえませんか」


「嫌ですわ! あなたが承諾してくださるまで離しません!」


「もちろん、また戦いましょう」


「やっ……、ではなくて、その意気ですわ! 今度こそ決着をつけてみせます!」


 鼻息荒く離れてくださったクロエさんを落ち着かせ、私はメーラさんを見ます。


「メーラさんも、戦ってくださいますよね?」


 メーラさんは目を伏せつつも耳をピクピク動かしながら、


「あなたがもっと強くなって、私と同じくらいのレベルになったら。あっ、あなたが弱い、わけじゃない。プレイヤーレベルが何個も下なのに勝っても、嬉しくないから」


「ありがとうございます」


 優しいメーラさんに礼を言い、私は次にセナさんを見ました。


「セナさん」


「なんだ?」


「最後、死んでしまうのではないかとヒヤヒヤしました。今度またよろしければ、戦ってもらえますか」


「あんたとはもう二度と──、あ、いや。戦いたくなくはない。ただ、あんたは強いから、今まで通り仲間でいてくれ」


「そうですね、その方が良さそうです。ところで、バケモン、とは何ですか? 化け物ということでしたら、私はそのようなものではありませんよ?」


「ぐ」


 私が少し怒ったように見せたので、セナさんは喉をつまらせてしまいました。


「あははは! るり姉、いつも通りだね!」


「──琥珀」


 琥珀が満面の笑みを浮かべて、私の真正面に立ちました。

 見上げるのは大変ですが、琥珀が嬉しそうなのが見えるので不満はありません。


「優勝おめでとう。願いが叶った気持ちはどう?」


「とても爽快な気分です。琥珀、ライアさんも、私に協力してくださってありがとうございます」


「いえ、私も楽しませていただきましたから」


「そうだよ! るり姉と一緒に戦えて、すっごく楽しかった!」


「それは良かったです。それもこれもすべて、琥珀がこのゲームに誘ってくれたおかげですね。陣営こそ違いましたが、こうやって協力できるものがあってよかったです」


「そうだね! うん、るり姉が楽しんでくれてよかった! 今度のイベントでも一緒に遊ぼうね!」


「ええ、もちろん」



▼▼▼▼▼



 数分が経つと、準備会場もなくなって、いつも通りの場所に戻っていました。

 イベントは終わりましたがまだ時間はあるので、私とセナさんはカフェに来ていました。


「まさか、あんな無茶なことされるとはなー」


「手は焦げていましたが、なかなか貴重な体験でしたよ? セナさんも今度やってみては?」


 と言うのは、私が火の鳥の足につかまって飛んだ時の話です。

 手は熱かったですが、上から見る景色は壮観でした。


「いやいや。なかなかできるもんじゃないだろ、あれは」


「そうですか? でも──」


 反論しようとしましたが、セナさんに口を塞がれてしまいました。


「ふぇほふぇ」


「いいから。あんたとは次の計画を話し合いたいんだ」


 私は言いたかった言葉を呑み込みました。

 セナさんは私に先程の話を続ける気がないと判断すると、唇から指を離してくださいました。


「──次の計画とはなんですか?」


「領土戦だ」


「領土戦、ですか?」


「──シークの土地に攻め込む。それが、次に俺たちがすることだ」



▼▼▼▼▼



「セナさん!」


「わあってる!」


 私は走り回りながら、悲鳴を上げて逃げ回る人たちの頭を落としていきました。

 ひとり、ふたり、さんにん、と体を散らしていきます。

 この混乱の中、どうにか反撃しようとする人もいますが──。


 ダン、という衝撃音が鳴って、その人はあっという間に消えてしまいました。


「ないすです!」


 村を占領するまで、あと30人。


「簡単ですね」


「うわぁっ! 首切悪魔だー!」


「あらあら。誰ですか? そのような名を広めたのは?」


 そう言って、私は私を変なあだ名で呼んだ方の首を切り落とします。

 他にも『無慈悲なロリっ子』とか──長くありませんか?──、『白い悪魔』とか『おまかせ女』とか呼んでくる方もいらっしゃいますが、一体誰が考えるのですかね?


 まあ、何であれ私は私なので構いませんが。


「さあ、殲滅まであともう少し。『楽しく』なってきましたね──」


 私が本当のハイドNo.1として大地を震わせるのは、まだ少し先の話です。






↓↓↓↓以降は後書きです↓↓↓↓↓





作者の諸事情により、最新26話をもって完結済みとさせていただきます。

いつになるかは分かりませんが、第二章とするか番外編とするかで続きを書く予定です。

それまでは誤字や辻褄の合わないところの報告や、感想等いただけるとありがたいです!

ではまた!

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