第25話 見つけました
「──琥珀。狙撃手を殺す方法はご存知ですか」
「ご存知って……。私、人を殺す方法も知らないんだけど」
「あれ? さっき殺してませんでしたっけ」
「してないしてない。気付いたら死んでたし」
「そうですか。では仕方ありませんね」
「どうするの?」
「臨機応変にいきましょう。私をあそこに飛ばせませんか?」
「ごめん、私使えるの炎系だけでしかもレベルそんな高くないから……」
「分かりました。──では、こんな魔法はありませんか?」
「────時間はかかるけど、いけると思う。でも、どうするの? もしかして」
「ええ。ご想像の通りです」
「えっ。でも、ヒット判定あるよ?」
「その辺は何とかします」
「何とかって……、るり姉にしてはらしくないね」
「変ですか?」
「ううん! るり姉が私みたいに雑になっててちょっと嬉しいなーって思ったり? それに、前は自分で作戦立てたりなんかしなかったし。ほら、受験の時もお母さんの言うことばっか聞いてたでしょ?」
「そうですね。それは今もそうですよ。ですが、ここにはお母様はいないので。ある程度は私が決めてみてもいいかもと。頼れるセナさんも敵になってしまいましたしね」
「あれ? 私は頼れないってこと?」
「命令しろと言ったのは琥珀ではありませんでしたか」
「ふふっ。ジョーダンジョーダン。──本当に、るり姉がこのゲーム始めてくれて良かった」
「──え? 今なにか言いましたか?」
「ううん、何も! ……ほら、セナさんが待ちくたびれちゃうよ!」
「そうですね。待ってくださったセナさんに感謝して、始めてしまいましょうか」
「よし、じゃあ行くよー!」
琥珀が呪文を唱えたのを皮切りに、今イベント最後の戦いの火蓋が切られました。
▼▼▼▼▼
セナさんは本当にお優しい方ですね。
初対面で私に色々教えてくださったのもそうですが、今だってそうです。
私と琥珀が作戦会議している間、狙撃せずに待ってくださったのですから。私だったら、さっさと首を落としているところです。
お優しい方を裏切ってしまうのは恐縮ですが、私も譲れないものがあります。
もう一度メーラさんと戦いたいですし、セナさんと戦うのも、この機会を逃してしまってはもうないかもしれません。
そう言えば、クロエさんとも戦いたいです。最後あまりいい終わり方をしませんでしたから。
あの時クロエさんを殺したのは、セナさんでしたね。
「今度は、私があなたを殺して差し上げます」
セナさんの銃口が私に向けられる瞬間──。私の短剣がセナさんの首を真っ二つにする瞬間──。それらを想像すると、自然と笑みが溢れます。
ええ、きっと、私はこの時のために生きてきたのです。
父に言われて体操を習ったのも、母に言われて勉強を頑張ったのも、全てはこの時のためだったのでしょう。
やはり、両親の選択は間違っていませんでした。人の勧める道はやはり進むべきなのです。
ですが──。
「ここからは、私の感情にまかせる番です」
私は飛んできた銃弾を短剣で弾き返し、セナさんのいる所へと一直線に駆け抜けました。
▼▼▼▼▼
「は? 剣で俺の弾を斬った?」
正確には弾いたみたいだが、そんなことはどうだっていい。
スナイパーライフルの弾を見切るなんて。それに、今のは完全に不意打ちだったはず。
「やっぱアイツ、普通じゃねえな」
分かりきっていたが、やっぱり、アイツ──るりは人間じゃない。
いざ対峙してみたら、尋常じゃないくらいアイツが恐ろしく感じる。
今すぐに突進してきて、気づいた時には頭が宙を舞ってるんじゃないかってくらい。
そうならないように、俺もアイツの動きを見切らねえと。
だが、アンバーってヤツの方も気になるな。さっきから長めの詠唱してやがる。
詠唱でどんな魔法が来るか分かればいいが──。
「このゲーム、謎の凝ってるせいで種族ごとに呪文違うんだもんな」
人間には人間の、魔族には魔族の魔法がある。おまけに、それぞれ習得しないと聞き取れない謎仕様だ。
「邪魔だな」
るり──、アイツは確実に俺を殺しに来る。だが、アンバーは不確定要素だ。もちろん、アイツの味方であることは間違いないが、直接殺しにくる必要がない分動きが読めない。
しかも、聞き取れない魔法ってんだからなおさら。
「殺るか」
魔法の答え合わせをする前に、殺してやる。
俺はアンバーの脳天に照準を合わせて、引き金を引いた。
▼▼▼▼▼
セナさんの銃の先から光が迸るのが見えました。
狙いは──、琥珀ですか。予想通りですね。
「琥珀!」
「なんの!」
ちょうど詠唱も終わったようです。背後から、猛烈な熱気を感じました。
私は空を見上げ、そこに美しい鳥を見ました。
真っ直ぐに飛んできた弾はその鳥に衝突し、火花を散らして消えました。
ええ、その鳥は、大きな、それは大きな火の鳥だったのです。
「素晴らしいです」
私はその鳥の足につかまって、空を大きく飛び上がりました。
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