第21話 不吉な予感はよく当たるものです

「いませんね……」


 セナさんに指定された場所に来てみましたが、メーラさんと思わしき人の姿はありません。

 と言うより、人っ子一人いません。

 その上廃都なので、不気味さが増しています。

 私は平気ですが琥珀は昔から怖いものが苦手だったので、ずっと怯えていますね。

 姉としては、手を繋いで安心させることしかできません。


「るり姉……。誰もいないし、もう行こうよ」


「怖がらなくても大丈夫ですよ。ここは仮想の世界ですから、幽霊はいないはずです」


「……ゲームの中だからこそいるんだけどね? じゃなくて、なんか異様な雰囲気がするっていうか」


「そうでしょうか? 私は何も感じませんが」


「アンバーさんの言う通り、何とも言えない不気味な雰囲気が漂ってますね。例えば、ここで大量殺人が行われたような」


 ライアさんはそう言いますが、やはり何も感じません。

 もし本当に大量殺人が起きていたとしても、ここでは死体は消えてしまいますから、真偽は定かではありません。

 しかし──、


「先程から何者かに狙われているような気はしますね」


「え!? るり姉、そういうのは早く言ってよ!」


「え? すみません。ですが少しだったので、勘違いかと」


「るり姉の感覚が間違うわけないじゃ──!」


 可哀想ですが、琥珀の喋るのを止めたのは私です。

 突き飛ばされた琥珀は驚いていて、釈明したいところですが今はそれどころではありません。

 私はすぐに武器を構え、つい先程まで琥珀の体があった辺りを薙ぎます。

 しかしナイフは空を斬り、伸ばされた腕に代わりに刃が飛んできます。

 私はすんでのところで避けますが、表面を僅かに切られてしまいました。


「何なに──!?」


 琥珀もライアさんも驚くばかりで、対応出来ていないようです。

 無理もありません。襲撃者の姿は透明で、見ることは叶わないのですから。


「琥珀! ライアさん! 襲撃です! 予定は狂いましたが、計画通りにいきます!」


「わ、わかった!」


 琥珀とライアさんが距離を取ったのを見計らって、私は神経を研ぎ澄ませます。

 お相手はどうやら、透明になれる何かを使っているようです。

 セナさんからはそのような情報の人のことは聞いていませんが、動き方を見るにこの方が今回の目標、メーラさんなのでしょう。


「見えないのは圧倒的に不利ですね」


 私はまだこのゲームになれていないので、透明になっている仕組みも、解除させる方法もわかりません。

 しかし、解決できない問題などありません。何かしら手はあるはずです。


「琥珀! 火を放てますか!?」


 先程聞いたところ、アンバーとしての琥珀は魔法も剣も使えるそうです。

 セナさんはどちらかにした方が強いとアドバイスしてましたが、琥珀はああ見えて頑固なので変えるつもりはないようです。

 なんでも、「魔法も剣も使えてこそ、このゲームでしょ!」と言っていました。

 私もいつかは魔法を使ってみたいです。


 そんなことを考えている間にも、見えない刃は飛んできます。

 音は聞こえるのでどうにか回避出来ますが、いたはずの場所を斬ってもいつの間にかいなくなっていて、攻撃ができません。

 お相手に火をつけることが出来れば見えるようになると思ったのですが。


「どこに!?」


 確かに、動きが早くて見えもしないので、着火するにもどこをどうすればいいかわかりません。


「すみません、私の判断ミスでした。では、この辺り一体に水を撒くことは出来ますか?」


「水なら私の得意分野です!」


 意外にも、そう叫んだのはライアさんでした。

 人を癒せる、とライアさんは言っていましたが、なるほど、水も扱えるのですね。すごいです。


「では、お願いします!」


 すると、ライアさんが何やら唱え始めました。先程も思いましたが、何と言っているか全くわかりませんね。

 日本語でも英語でも、というよりどこの言語でもなさそうです。ライアさんも琥珀も、知らない言語を暗記しているのでしょうか。

 私であれば、このような場では咄嗟に思い出せないでしょう。今度習ってみたいですね。


 そう思っている間にも、地面が水で覆われ始めました。

 襲撃に注意を払いつつ見回してみると、ある地点より先には水はないようです。私の周りにだけ、大きな水たまりがあるのでした。


「これが魔法ですね。素晴らしいです」


 たとえ透明になっているとはいえ、水の影響を受けずにはいられません。

 地面を踏めば波紋が広がり、私に居場所を知らせてくれます。


「ようやく楽しくなってきましたね」


 私は近くで生まれた波紋の一歩先、その下方を斬り、ようやく姿を現してくれた方を笑顔で迎えました。

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