第20話 冗談がお上手で

「メーラさん、ですか? その方を、どうして私が?」


 セナさんは私にメーラさんという方を討伐しろと仰いましたが、何故でしょうか。


「言っただろ、そいつはハイドナンバーワンだ。……俺の力じゃ、あいつには到底及ばない。そこで、だ」


「そこで?」


 セナさんは楽しそうに頬を持ち上げると、


「あんたのそのプレイヤースキルであいつを倒して欲しい。多分、開始から結構経ってるから、メーラを倒せばあとはトントン、だな」


「でも、シークのトップも残ってるはずだけど……」


 確かに、琥珀の言う通りです。

 メーラさんを倒すのは構いませんが、どうしてセナさんはメーラさんにこだわるのでしょうか。


「手当たり次第強い方と戦えばいいのではありませんか?」


「そう思うだろ? だが、そうもいかねえんだよ。シークのトップもまあまあ強いっちゃ強いが、あいつらはどーせ廃課金勢。プレイヤースキルに関してはメーラの足元にも及ばねえ奴らだ」


「廃課金勢?」


「あ、るり姉。廃課金勢っていうのは、このゲームに沢山お金を払ってる人のことだよ。装備とかにお金をかけて強くなるの」


「そ。だから、本人のスキルに結びついてない奴らが多い。しかも、シークはそこまでPvPに慣れてない」


「PvPはプレイヤー同士の戦闘のことね。るり姉がいつもやってるやつ」


「なるほど。つまり、実力が全然違う、ということですね?」


「そういうことだ。……あ、何で私が、とかは言うなよ。あんたの無自覚強者っぷりはもう聞き飽きた。分かったんなら……」


「分かりました。メーラさんは私が倒しましょう」


「お」


 セナさんの話を遮ってしまったからでしょうか。セナさんは少し驚いたような顔をしています。


「先程はクロエさんを倒しきれず、迷惑をかけてしまいましたから。今度は、倒し切ってみせます。何となく、分かってきましたし」


 このゲームには、情熱をかけている人が多いような気がします。

 そんな中で、私のようなものがいてもいいのでしょうか。

 強いというだけで、沢山驚かれたり、狙われたりもしました。

 私は、彼らのようにはこのゲームには情熱はありません。でも、何度も助けてくださったセナさんの希望には応えたいです。


「じゃ、頼むぜ」


「分かりました。では、向かいましょう。メーラさんはどこにいらっしゃるのですか?」


「あ」


 どうされたのでしょうか。セナさんが、口をあんぐりと開けて動かなくなってしまいました。


「居場所、わかんねえや」



▼▼▼▼▼



「大口叩いといて居場所も分かんないの!? びっくり!」


「琥珀。言い方が悪いですよ」


「あ、るり姉も同じこと思ったんでしょ」


 にやにやと笑ってこちらを見る琥珀のことは放っておいて、私はセナさんに問います。


「見つける方法はないのですか?」


「あ、そうだよ。セナ……ちゃんはスナイパーなんだよね? 索敵スキルとか──」


「ああ、あるある。さっきのは冗談だよ」


「だよね」


 索敵スキルとは何でしょうか。索敵、というぐらいですから、居場所が分かるのでしょう。


「あんたは? ──あんたは持ってないのか?」


「え、ああ」


 確か、スキルというものはメニューウインドウに書いてありましたね。



 ▼△▼△▼△▼△▼△▼△








るい Lv.9




HP 90/90 SP 90/90




性別:女 種族:エルフ




陣営:ハイド




殺人回数:17 死亡回数:0




貢献度:19




ランキング:5980位








STR:10 AGI:10 VIT:0




MND:0 INT:0 DEX:10 LUK:0








所持スキル:




〈短剣術〉Lv.5〈隠蔽〉Lv.2〈隠密〉Lv.2(霧中視野〉Lv.1〈瞬殺〉Lv.3〈聞き耳〉Lv.1〈投擲術〉Lv.2〈格闘術〉Lv.2〈魔法回避〉Lv.1








所持称号:




『暗殺者』気付かれずに殺人をした者に贈られる称号。セットすると〈隠密〉スキルのレベルが上がりやすくなる。




『返り討ち』襲ってきた者を返り討ちにした者に贈られる称号。セットすると〈瞬殺〉スキルのレベルが上がりやすくなる。




『首斬り魔』10人以上を首を斬って殺害した者に贈られる称号。セットするとDEX+30








▼△▼△▼△▼△▼△▼△



「ありませんね」


「そうか? じゃあ、まあいいや。……でも、そろそろだと思うぜ?」


 セナさんが言い切ったのと同時に、突然目の前にウインドウが出てきました。


「わ」


「あ、そっか」


 光点が出ている画面です。確か、プレイヤーの居場所が分かるのでしたか。


「名前は分かんないけど、ちょうどよかった」


「どうしてですか?」


「俺の索敵スキル、そこまでレベル高くないから範囲が限られてるんだよ。使うのにもクールタイムがあって面倒だし」


 点は先程より減っているようですね。でも、地図の表示範囲を広くしてみると、ほとんどの点がこの辺りに集中しているようです。


「っし。大体目星はついた。あんたらも、覚悟は決めたか?」


 セナさんは私ではなく、琥珀とライアさんの方を見て言いました。

 ずっと黙って悩んでいる様子だったライアさんは、セナさんを真っ直ぐ見つめます。


「ずっと考えていたのですが」


「ライア? どうしたの?」


「私は、あなた方に付き合う理由はありません。そこまでこのゲームに熱を上げているわけでもありませんし」


「別に、あんたがどうしようと俺は別に構わないぜ? たまたま知り合っただけだし、あんたが他に仲間がいて、そいつらと一緒にいたいならここで別れてもいい」


「私はまだライアと一緒に遊びたいよ?」


「だから、悩んでいるのです。私はヒーラーですし、何か役に立てることはあるかもしれません。ですが──」


「その気持ち、分かります」


 私が口を開くと、皆さん私の方を見ました。何だか、恥ずかしいですね。集中して聞くほどいい話をするつもりはないのですが。


「悩むのなら、一番信頼できる人に判断をお願いすればいいのではないでしょうか。私もずっと、そうしてきました。これは経験則なのですが、その方が、無駄な争いを生みません」


「るり姉……」


 どうしたのでしょうか。琥珀が、悲しそうな目をこちらに向けてきました。

 ライアさんはしばらく悩んだ後、


「分かりました。──私は、アンバーと一緒にいることにします。アンバーはお姉様と一緒に?」


「うん。そうしようかなと思う。できることは……多分ないけど。私弱いし」


「じゃ、決まりだ。さっさと行こうぜ。メーラが移動したら困る」


 このイベントも、もう終盤のようです。何だか少し、少しだけですが、寂しいような気がしてきました。

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