第15話 私は運がいいみたいです

 黒い方のローブ諸共首を跳ね飛ばしてから短剣を腰に収め、地面に倒れたアンバーさんの体を抱き抱えます。


「大丈夫ですか!?」


「る、り姉……」


「──!?」


 思わぬ名前に呼ばれたことに驚きますが、今はそれどころではありません。

 アンバーさんを押さえ付けていた方の体は消しましたが、アンバーさんは未だに体から力を抜いたままです。


「一体何が……!」


「おそらく、毒でしょう」


「毒、ですか?」


 駆けつけたライアさんは息を切らしながら答えます。


「アンバーの周りに紫色のエフェクトが見えますでしょう? これが、毒デバフにかかった証拠です」


 そう言われれば、アンバーさんの周囲には紫色の丸い物体が出てきては消えを繰り返しています。


「毒にはいくつか種類がありますが、これはおそらく行動制限の類でしょう。それならちょうどポーションを持っています」


 ライアさんはウィンドウを操作すると、緑色の液体が入った小瓶を取り出しました。それからその瓶の蓋を開け、アンバーさんの口の中に液体を入れていきます。苦悶の表情を浮かべていた彼女は少しずつそれを飲み、数秒後小瓶は空になりました。

 いつの間にか、紫色のエフェクトは消えています。


「アンバーさん?」

「アンバー、大丈夫ですか?」


 2人同時に声をかけると、彼女はうっすらと目を開けました。


「ん……、2人とも、ありがとう」


「よかったです。何か異常はありませんか?」


 アンバーさんは私の腕の中から離れ、立ち上がりました。


「うん。ライアの読み通り、ただの行動不能付与だったみたい。HPも減ってないし大丈夫。あと、るり、さん」


「はい?」


「助けてくださって……、ううん。助けてくれてありがとう」


「えっ……と?」


 わざわざ言い換えた意味はなんでしょう?

 アンバーさんは琥珀色の毛先をくるくると回しながら、


「るり姉、なんでしょ? 名前同じだし、喋り方も似てる……っていうか、全く一緒」


「あっ。琥珀ですか!?」


「ん、そう」


 アンバーさんもとい、琥珀は頷きつつも顔を下に向けたままにしてしまいました。

 まさか既に琥珀に会えていたとは、思いもしませんでした。分かっても驚きは少ないですね。なんとなく気づいていたからでしょうか?

 私はまじまじと琥珀の体を見つめ、首を捻ります。


「似てませんね……」


 私もあまり言えませんが、顔も服装も全く普段の琥珀からは想像がつきません。

 今の方が断然露出が高いので、姉としては少し心配になってしまいます。

 でも、容姿に関しては納得出来るところもありますね。特に髪の毛です。琥珀色なのは名前にちなんでのことだったのですね。


「あの、お知り合い、だったんですか……?」


 蚊帳の外にいたライアさんが伺うように会話に入ってきます。


「うん。そう。この人は、私のお姉ちゃん」


「えっ!?」


 ライアさんは水色の目をまん丸くさせます。


「るり姉、この子は私のクラスのお友達」


「あっ、そうなんですか。お友達だったのですね」


 いえ、言い方を間違えましたね。現実の外でのお友達という意味です。こうしてゲームの中で一緒に遊んでいるのですから、お友達でないわけがありませんよね。


「いつもお世話になってます」


 腰を深々と曲げ、ライアさんに感謝の意を示します。


「あ、いえ。こちらこそ……?」


「もう! るり姉、そういう硬っ苦しいのはいいから! さっきは助けてくれて本当にありがとう! 

さ、早く行こ!」


 琥珀に手を引かれ、雪に足を取られながらも先を急ぎます。


「あれ、感動の再会に気づく場面だったのでは? そんなあっさり?」


 ライアさんが何やら困惑しているようです。


「感動の再会すぎて日が暮れちゃうの! 気になることが多すぎて!」


「確かに私も気になることは多いですが……」


 ライアさんがこちらにちらりと視線を向けてきました。

 なんでしょうか? とりあえず笑っておきましょう。


「──!」


 あら、顔を赤らめて前に戻してしまいました。そんなにおかしかったでしょうか? 笑顔は得意な方なのですが。


「あの、先程の方々の遺品が貰えたようなのですが、宝物と書かれたものがあります。もしかしてこれは……?」


 琥珀が突然立ち止まります。


「何個ドロップした!?」


「わあっ」


 すごい勢いで顔が近くに来ました。琥珀は興奮するといつもこんな感じなのですよね。


「えっと……2個です」


「2個かー」

「2個ですかー」


 ライアさんも落胆しています。2個がそんなに悪いのでしょうか?

 あ、分かりました。ここには3人いるからですね。


「私はいらないので2人にあげますよ?」


「えっ、いいの!?」


「いいんですか!?」


「言ったではないですか。私がこのイベントに参加している意味は特にないと。ランキングも特に興味は無いので、宝物は私には必要ありません。なので、遠慮なくどうぞ?」


「………………ほんと、るり姉はゲームの中でも変わんないね」


「?はい、どうぞ」


 ウィンドウから宝物を取りだし、2人に差し出します。

 ウィンドウの中では同じ宝物という区分でしたが、見た目は違いますね。片方が金の聖杯でもう片方は王冠です。


「ありがとう」

「ありがとうございます」


 2人の感謝の言葉に笑顔で返し、ウィンドウを閉じます。


「さあ、行きましょうか。このエリアも、もう少しで終わりのようですよ?」


 私の目線の先には、先程までの銀世界ではなく別の景色があります。

 半分から上のないビルに、骨組みだけが残った建物、小さくですが、壊れ果てた車も見えます。


「都市というより、廃墟ですね?」


 あの中で、血みどろの殺し合いが行われるのですね。少し、ほんとに少しですが、ドキドキしてきました。

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