第12話 ガキではないです

「……くしゅん。寒いですね」


 曝け出された腕をさすりながら、周りを見渡します。

 遺跡のようですが、いたる所が凍っていますね。

 確か、氷山ステージなるものがあるのでしたか。

 小さな部屋のようですから、いったん外へ出ることにしてみます。


「誰かいたぞ! しかも初心者装備だ!」


 あら? 誰かに見つかってしまったみたいです。

 フロアの向こうのほうに、猛ダッシュしてくる方がいらっしゃいますね。


 困りました。まだ始まったばっかりですから、殺してもあまり意味がないと思うのですが。

 まあ、琥珀に会えるまでは死ぬわけにはいかないので、迎撃するしかないですね。


「──っと」


 突進してくるだけの敵を避け、バランスを崩したところを足首から斬り離します。

 もう一方の方の足も斬り、敵も地面に倒れ込んだので首筋に短剣を突き立てます。

 敵は呆気なくエフェクトを舞わして消えてしまいました。

 一人殺しましたが、まだ油断なりません。誰かに声をかけていましたから、一人以上はいらっしゃるでしょう。


「ファイアボール!」


 おや? 初めて聞く言葉ですね。魔法でしょうか。

 フロアにある大きな氷の柱の向こうから、橙色の丸い炎が飛んできました。

 魔法を見るのは初めてです。少し感動してしまいました。今度魔法も使ってみたいですね。必要あるかどうかはわかりませんが。


「おっと」


 予想以上に速いスピードで飛んできました。ギリギリで躱して、飛んできた方向を見ます。

 厄介ですね。私は魔法相手の戦いを知りません。

 むしろ、今まで暗殺しかしてこなかったので、このように姿を晒して誰かを殺すのも初めてなのですが。


 とにかく、走って氷の後ろに隠れている人の姿を確認します。

 女性の方ですね。赤っぽいローブを羽織っています。


「はやっ……!」


 女性は驚いているだけで、魔法を放ってくる様子はありません。

 都合がいいです。さっさと殺してしまいましょう。


「よいしょっと」


「まっ──」


 首を刎ね、深呼吸します。


「「死ねえええええっ──!」」


 まだいらっしゃったようです。今度は一気に2人ですか。

 いいです。殺してしまいましょう。


「ふっ──!」


 二人とも、大きな剣を持っていらっしゃいますね。重そうな鎧をつけていますが、頭は出ているので首を狙うだけですかね。

 とりあえず同時に突進してくる二人の間を縫い、後ろに回り込みます。

 腰から小さなナイフを取り出して一人の方の首へ投擲、その間にもう一人の方の首を落とします。


「クソガキがぁあっ!」


 あら、私はガキではないのですが。

 首にナイフが刺さった方が大きく剣を振り上げて向かってきます。

 隙ばかりの腹を蹴り飛ばし、そのまま足で体を押さえつけすばやく首を薙ぎます。


「くっそ……」


 足の下の物体が消え、私は息を吐きます。

 流石にこれで終わりだといいのですが。


《レベルが上がりました》

《新しく〈格闘術〉スキルを獲得しました》

《新しく〈魔法回避〉スキルを獲得しました》

《〈短剣術〉スキルのレベルが上がりました》

《〈投擲術〉スキルのレベルが上がりました》

《〈瞬殺〉スキルのレベルが上がりました》

《称号『返り討ち』を獲得しました》

《称号『首切り魔』を獲得しました》


 見回して誰もいないことを確認し、私はメニューウィンドウを開きます。


▼△▼△▼△▼△▼△▼△




るい Lv.7


HP 70/70 SP 70/70


性別:女 種族:エルフ


陣営:ハイド


殺人回数:11 死亡回数:0


貢献度:10


ランキング:8500位




STR:10 AGI:10 VIT:0


MND:0 INT:0 DEX:10 LUK:0




所持スキル:


〈短剣術〉Lv.4〈隠蔽〉Lv.2〈隠密〉Lv.2(霧中視野〉Lv.1〈瞬殺〉Lv.3〈聞き耳〉Lv.1〈投擲術〉Lv.2〈格闘術〉Lv.1〈魔法回避〉Lv.1




所持称号:


『暗殺者』気付かれずに殺人をした者に贈られる称号。セットすると〈隠密〉スキルのレベルが上がりやすくなる。


『返り討ち』襲ってきた者を返り討ちにした者に贈られる称号。セットすると〈瞬殺〉スキルのレベルが上がりやすくなる。


『首斬り魔』10人以上を首を斬って殺害した者に贈られる称号。セットするとDEX+30




▼△▼△▼△▼△▼△▼△



 なんだか物騒な称号ばかりですね。

 別の欄を見ると、スキルポイントとステータスポイントがまた貯まっています。

 ですがこの辺は私個人の判断ではどうしようもないので、放置します。セナさんに会えたらお願いしましょうかね。


「では、そのセナさんに会いに行くとしますか」


 ウィンドウを閉じ、遺跡内を見回します。

 宝物のようなものはありませんね。

 とにかく寒いのでここは出ましょう。寒いのは苦手なのです。






▼▼▼▼▼



「人がいますね」


 遺跡の出口まで来ると、見知らぬ人が3人ほど固まって駄弁っていました。

 見たところ女性2人男性3人といったところでしょうか。

 困りましたね。ここから出る以外に遺跡から出る方法はないのですが。


「遅くないか? まさか、殺されたんじゃ」


「そんなわけないでしょ! だって、あの3人だもん! それに、殺されてたら、殺した人がもう出てくるでしょ」


「確かにな」


「しばらく待ったら行きませんか? もう待っていられませんよ」


「そうだな。俺もそれに賛成だ。アンバーは?」


「うん。もし殺されてたとして、確認しに行くのはあまりに危険だし。私も、もう少し待ってから離れてもいいと思う。それにここ、寒いし。私、寒いのは苦手なんだよね」


「それは賛同です。では、あと2分ほど待機にしましょう」


 良かったです。あと2分待てばいいのですね。

 しばらく待っておきましょうか。遺跡の中に誰もいないことは確認済みですし。


「待って。誰かいる。もしかしたら、アンドリューたちかも」


「ほんとですか?」

「本当か?」


 おっと。女性の方がこちらをじっと見つめています。

 バレてしまったのでしょうか。特に何もしていないですが。


「おーい。アンドリュー、ドラケンかー?」


 まずいですね。男性が近づいてきました。

 ここは一旦戻るべきでしょうか。


「よっと」


 入ってきてしまいました。

 今はまだ気づかれていませんが、きっと時間の問題です。

 引き返すときに見られてしまうでしょう。

 そして外には女性たちがいるので逃げ道はありません。


「――っ」


 ここは思い切りです。前のように判断できずに立ったままでも、セナさんは助けてくれません。

 私は即座に短剣を構えて背中を向ける男性に斬りかかります。


「わっ。何だお前!」


 自分の体の2倍はある方に襲いかかるのは初めてですが、もう後先考えている暇はありません。

 私は男性の太もも辺りに剣を振り抜きます。しかし先程殺した男性方よりも軽装だったからか、軽々と避けられてしまいます。


「何だ、お前。もしかしてお前、アンドリューとドラケンを殺したか?」


「男性は合計で3人ほど襲いかかってきたので殺しました。その方達があなたの言う方かどうかはわかりません」


「ちっ。ほぼ確じゃねえか。仕方ねえ。お前みたいなちっさくてかわいいアバターを手に掛けるのは気が引けるが、そっちが俺の仲間を殺したってんなら、容赦はしないぜ。絶対に殺してやる」


「私の行動が気に触ったのなら、謝ります。でも、私も大切な目的がありますから」


「そうかいそうかい。じゃ、俺も遠慮なく!」


 あら? 外に出てしまいましたよ?

 お仲間と一緒に、ということでしょうか。


「カシス! 一体何があったのですか!?」


「あいつは、アンドリューとドラケンを殺した!」


「「!?」」


「俺が相手する。ライアは後ろで支援頼む」


「分かりました」


 女性2人が後ろに下がって、男性が長物――槍を構えます。


「槍、ですか。槍はまだ相手にしたことがありませんね」


「そりゃ良かった。俺も人を殺すのは初めてだ」


「あら。簡単に殺されるとは思わないでいただきたいですね」


 ああ、ドキドキしてきました。

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