第11話 始まります!

「それで、話というのは?」


 私は紫色のソファに座りながら、セナさんに問います。

 すでに座っていたセナさんは脚を組んで、


「これからの話だ。この前、イベントの話も中途半端で終わっちまったし?」


「そうですね。宝探しのようなゲームとしか聞いていませんでしたね」


 後は、ハイドに有利なイベント、なんでしたっけ?

 そういえば、ネットでそのことについて調べてみようと思っていましたが、忘れていました。


「では、詳しく教えていただけますか?」


「おうともよ」


 セナさんが口を開くと、私たちの席に別の方がやってきました。


「ご注文はいかがなさいますか?」


 給仕係の方ですね。エルフのようです。


「あ、俺はエールで」


「私はコーヒーでお願いします」


「かしこまりました」


「……で、イベントだが。――『大金獲得! 目指せ! トップトレジャーハンター!』って名前だってのは教えたよな?」


「ええ。宝探しをするのですよね?」


「ああ。そうだ。全く、最初の公式イベだってのに随分ゆるい名前だよな。俺的にはふざけたクエスト作ってるやつと同じやつが作ってると思うんだが……ってあんたには通じないか」


「ふざけたクエスト?」


「あんたも聞いたことないか? 初心者向けクエストの『眠れる森の豚』ってやつ」


「私はまだクエストを受けたことがないので……」


「そっか。……ふざけてるだろ? 中身もふざけててさ、クエストに必要な装備がレア度高いくせに報酬は使い道の分かんねえ真珠と豚の肉ときたもんだ。完全にネタ枠だな」


「へえ?」


 ふざけているかどうかはゲーム初心者の私には分かりかねますね。


「今回の公式イベントの指揮者とそちらのクエスト作成者は同一人物ですよ! とても愉快な方です!」


「カクレちゃん……。あんたそれ言わされてるんじゃないだろうな?」


「さあ?」


 1人と妖精のやり取りを眺めて私は微笑みます。


「公式イベントとはどのようなものなのですか?」


「その名の通り、宝探しするんだよ。あちこちに宝物が落ちててさ。隠された宝物も多いから、隠れながら探せるハイドはだいぶ有利になるんじゃないかって言われてる」


「なるほど。ただ、宝探しをするだけなのですか?」


「いや。いつもと違って、陣営関係なく殺し合いができる。それに、殺されたらそこで終わりだ」


「ふむ。でも、殺すメリットはどこにあるのですか?」


「殺したやつが持ってた宝物を確実に奪える。その点でも、ハイドは有利だって言われてんだ。基本モンスターと戦うシークとは違って、PKに慣れてるからな」


「ぴーけー。確か、人を殺すことでしたね。それで? 私はそのイベントに参加したほうがいいのでしょうか?」


「えっ。この流れで参加しないとかある?」


「セナさんが参加したほうがいいと言うなら参加しますよ?」


「じゃあ一緒にやろうぜ。あんたもその方がいいだろ?」


「んー。そうですね。もしかしたら中で妹にも会えるかもしれませんし」


「よし、それで決まりだな。……あ」


 コーヒーが届きました。受け取って飲み、一息つきます。


「それで、作戦だが。今まで通り、俺が後方支援、あんたが前線でいいよな?」


「その辺りはよくわからないのでセナさんに任せます。私は短剣を振って人を殺せばいいのですよね?」


「その通りだ」


「あ、でも、宝物はどうするのですか? 1つだけ見つけた場合、揉め事になりませんか?」


「そこは、交換交換でいいだろ」


「んー。そうですね、わかりました」


 何だか見落としていることがあるような気がしますが、セナさんがそう言うのなら、私に異論はありません。


「そうだ。あんた、ステ振りとスキル習得は済んだか? ある程度強化しとかないと、出遅れのあんたはイベントでいいとこいけなくなるぞ?」


「ステ振りとスキル習得、ですか。私どうにもそういうのは苦手で……。そうだ、カクレさん。お願いできますか?」


「もちろんです! るりさんのご希望通りにポイント配分しておきますよ?」


「では、今後もそれでお願いします」


「わっかりました!」


 あら、カクレさんがどこかへ消えてしまいました。


「あんた、ほんと何でもかんでも人任せにするんだな」


「私にできることは少ないですから。自分が判断すると失敗してしまう可能性が高いので、こうしてわかる方におまかせするようにしているのです」


「ふうん? 俺は自分で考えてやったほうが楽しめると思うがな。ま、俺が口出すことじゃないか」


 ええ、それでいいのです。過って怒られるより、おまかせして自分に被害が出る方がいいのです。


「じゃ、話すことはこれで終わりか? 昼も近いし、一旦落ちようぜ?」


「そうですね」


「あ、午後もインできるか? またシークのとこ行こうぜ」


「できると思います。13時でよろしいですか?」


「了解。じゃ、また後で」


「はい」


 飲み終わったコーヒーのカップをテーブルの上に置いたあと、私はログアウトしました。



▼▼▼▼▼



 日も進んで一週間後。土曜日の13時です。

 私は闇のようなイベント待機場所でイベント開始を待っていました。


「まずは、セナさんと会うことですね」


 開始直後はランダムでイベントフィールドに召喚されるらしいので、セナさんとは別々で今も私はひとりです。

 ナビ妖精のカクレさんも公式イベント参加禁止なので、本当にひとりぼっちです。

 なのでまず最初は、セナさんを探さなければなりません。

 不安は残りますが、きっと大丈夫です。


 あと、琥珀とも会えるといいですね。

 そう言った時の琥珀は変な顔をしていましたが、何故でしょう?

 ともかく、今回の目標はそれぐらいでしょうか。

 まだ始めたばかりなので上に行けるとは思っていません。


 闇が晴れてきました。

 ――さあ、始まります。

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