第8話 なるほどです
「もう! るり姉どこにいってたの!」
VRゴーグルを外すと、隣で琥珀が頬を膨らませながら起こっている様子でした。
「どこって、ゲームの中ですが?」
「んー! そういうことじゃなくて!」
琥珀が周りに気遣って小さな声で私に訴えてきます。
「では、どういうことですか?」
「私は聞いてきてって言ったのに、ぜんっぜん戻ってこないんだから!」
「ごめんなさい。そのまま遊んでしまいました」
「……んー」
琥珀は眉を下げて何とも取れない表情を浮かべると、ふうと息を吐きました。
「戻ってきてねって言わなかった私も悪かったし、この話はこれで終わりにしよっか」
「ありがとうございます。琥珀」
琥珀は手元のコードを指でいじりながら、
「遊んできたってことは、陣営変える気はないんだよね? るり姉はこれからどうするの?」
「そうですね――」
▼▼▼▼▼
「ふう」
私はタブレットの画面を落として、息を吐きます。
もう夜も随分更けてしまいました。暗い中で電子機器を触るのは行けないとわかってはいますが、どうしても調べたいことが多いと時間も忘れてしまいます。
目を閉じ頭の中で、先程まで調べていたハイド・アンド・シーク・オンラインについてまとめます。
ゲームの中では不甲斐なくもセナさんに頼りきりだったので、ある程度の知識は入れようと調べてみました。
まずはこのゲームで大事なのはやはり陣営のようですね。陣営が変わるだけでだいぶ遊び方が変わってしまうようなのです。
まだハイドについてしか調べていませんが、ハイドで一番重要なのは"隠れること"だそうです。
シークを倒すときに見つかってしまえば、あちらから与えられるダメージが一気に増えてしまうと書いてありました。
あとは、クエストですね。セナさんも教えてくれようとしていましたが、思わぬシークとの遭遇によりその詳細を知ることは叶いませんでした。
なので、今得たばかりのネットの知識を。
クエストというのはシークとハイド両方が取り組めるものなのだそうですが、その内容は全く違うそうです。
シークがモンスターを倒すものが多く、ハイドはお手伝いだったりシークを倒しに行ったりといった感じですね。
なんでも、ハイドはモンスターを倒せないだそうです。ハイドとモンスターは仲間なのだと記されていました。
でも殺せないことはないらしく(その辺はよくわからないですね)、万が一傷つけたり殺してしまったりした場合は、グレーとなって一定期間ハイドではなくなってしまうのだそうです。
元に戻るためにはモンスターを殺した数の倍のシークを殺さないといけないのだとか。
モンスターを殺しても利益はないので、殺さないのが得策ですね。
クエストはNPCという方からもらえるのだそうですが、その方の居場所がわかる地図というものを見た瞬間気が滅入ってしまいました。
色んな方々色んな所にいたのです。NPCによって受けられる内容も変わってくるそうなので、少し考えなければなりません。
しかし私はなにをすればいいのかわからないので、明日が不安です。
実は私、明日もあのゲームで遊ぶことになったのですが、明日はセナさんは来れないのだそうです。
セナさんには、「俺がいない間にレベルを上げててくれ」と言われたので、一人でも遊ばなければなりません。
そこで困ったのが、私の知識の不足です。私はにゅーびーなのでゲームのことを全く知りません。
そこでネットで調べてみたのですが、わからない用語も多く思ったよりも時間がかかってしまいました。
でも、良い情報も見つけられましたし、明日はきっとなんとかなるでしょう。
「ふわぁ」
そろそろ眠くなってきましたね。今夜はもう寝ましょうか。明日は9時からネットカフェですし。
▼▼▼▼▼
「るり姉、ホントに大丈夫?」
VRゴーグルを手に持つ私を琥珀が心配そうに見つめてきます。
本当に、この子は心配性ですね。
「んー。少し不安も残りますが、きっと大丈夫です」
「でも、ひとりなんだよね?」
「ええ」
「やっぱり不安だよ……」
「では、琥珀が教えに来てくれるのですか?」
「いやいや。すぐ殺されちゃうし場所わかんないって」
「私は大丈夫です。幸い、昨日良い情報をネットで見つけましたし」
「ほんと?」
「私を信じてください。もう琥珀に頼ってばっかりではいけませんから」
「それならいいけど……」
「では、行ってきますね」
私はまだ不安を残す様子の琥珀を横目にVRゴーグルをつけました。
もう目を開けばそこはゲームの中です。
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