第9話 むずがゆいです

「どうも! 私を呼んだのはあなたですか?」


「ええ、そうです。あなたがカクレさんですか?」


 目の前には、ふわふわと浮かぶ小さな女の子がいます。

 黄緑色の髪は高く2つに分けて束ねられていて、瞳は青で背中には透明な翅が生えています。

 そう、私がこのゲームを始める前に出会った妖精さんです。

 妖精さんはパタパタと飛び回ると、


「どうぞカクレちゃんとお呼びください!」


「……ところでカクレさん」


「…………………………なんでしょう。このカクレ、ご主人様のご命令とあればなんでも致しますよ」


 なぜでしょうか? 今、すごく間が空きましたね?

 それに少し不満そうです。

 カクレさんが言及する様子はないので、本筋へ戻しましょう。


「命令、とかではないです。逆に私がカクレさんに命令されたいといえばいいでしょうか」


「命令されたい!? あなたはドMなんですか!?」


「どえむとはなんでしょう? まあ、今のは少し語弊があったかもしれません。……私はあなたに、アドバイスを頂きたいのです」


「アドバイス、ですか?」


「はい。あなたは初心者をお助けする役としていらっしゃると伺いましたので、私もお助けいただきたいなと」


「確かに、私は私の助力が必要な方に向けて作成された立場です。ですが、先程ご主人様が言われた私に命令されたい、というのは私のプログラムには組まこまれていません。なので期待された働きはできないと思われますが……」


「それで構いません。カクレさんは私にこのゲームでの遊び方を教えて下さればいいです。なにせ私はにゅーびーなもので、全くもってこのゲームのことを知らないので」


「そうとあれば、わかりました。私はあなたのアシスト妖精として存分に働かせていただきたいと思います! すでに代金も頂いていますしね」


「ありがとうございます。これからよろしくおねがいしますね?」


 カクレさんの小さな手と握手を交わしました。


 初めてのお買い物でしたが、無事に完了してよかったです。

 昨日琥珀が教えてくれたナビゲーション妖精というのは、カクレさんのことでした。ひとり3万円と所持金で十分に足りたので、試しに買ってみたのです。

 これから、カクレさんに色々助けてもらいながら遊んでいきましょう。


「ではカクレさん」


「はい、何でしょうかご主人様!」


「その、ご主人様という呼び方をやめていただけませんか? なんかむずがゆいです」


「では、なんとお呼びしましょうか」


「うーん。なんと呼んでもらえるのです?」


「ご主人、主様、るり様……」


「それはあまり変わり無いような? もう、無難にいきましょう。名前にさん付けでお願いします」


「るりさん、ですね?」


「はい、それでお願いします」


「了解しました」


「それで、質問なのですが」


「はい! なんでしょう?」


「あの、私は今日何をすればいいのですか?」


「るりさんの目的はなんですか?」


 聞き返されて、私は一度口を閉じます。


「……レベル上げ、ですね」


「では、シークの領地に潜り込んでシークを殺すのはどうでしょう? 中立の立場の私が言うのもアレですが、るりさんの行動的にはそれが正解だと思いますよ?」


「人殺し、ですね。なるほど、わかりました。……でも、クエストを受けるでもレベルアップできるのではなかったでしたっけ?」


 忘れていましたが、クエストでもレベルは上がるとネットには書いてありました。

 カクレさんはどうしてクエストではなく人殺しを勧めてきたのでしょう?


「実はクエストというのは、PKに抵抗のあるハイドに用意されたものなのです。だから、クエストを達成するよりPKの方が多く経験値がもらえますし、スキルに関してはクエストを受けた方が早く入手できるってだけで、受けないことでできなくなることはないんですよ?」


「なるほど。確かに、人殺しというのは一部の人にとってはすごく抵抗のあることかもしれませんからね。私はあまり人殺しには抵抗はありません。だから、おすすめなのですね?」


「はい、そうですね。るりさんはスタートしてからすぐ殺している様子でしたので、それでもいいかと。穴場は私がご案内しますよ?」


「では、案内お願いしてもよろしいですか?」


「はい。レッツゴー! ですよ!」



▼▼▼▼▼



「よっと」


 まだ初々しい動作の男性の首を跳ね飛ばし、土の上に着地します。

 あれから一時間ほど経っているのですが、これでまだ一人目なのですよね。

 意外と時間がかかってしまいました。


「おめでとうございます! 見事な剣捌きですね!」


「ありがとうございます。では、次に案内してもらえませんか?」


「はい! 次は、すぐ近くですよ!」


 先を飛ぶカクレさんの後について行って森の中を疾走します。


「近づいてきました!」


 その合図と同時に失速し、なるべく音を立てないように動きます。バレてはいけませんからね。静かにするのは慣れてきました。

 踏みならされた土の道が先に見えます。それと、足音も聞こえますね。

 耳を澄ませて距離を推測します。


《新しくスキル〈聞き耳〉を獲得しました》


 おっと通知が入りましたね。

 若干ですが、足音がよく聞こえるようになります。

 だんだんと近くなってきました。一人のようですね。

 目の前にきました。


「──っ」


 木陰から飛び出し、短剣を振りかぶります。

 相手は驚くばかりで抵抗する仕草はありません。


「よっ──」


 鋒が首に届こうという瞬間、森の中に破裂音が響きました。しかも、近いです。

 そうとわかると同時に、殺そうとしていた方がエフェクトを散らせて消えてしまいました。

 なんでしょうか、この音、聞いたことがあります。


 音のした方向を素早く振り向き、木の上に小さな姿を見つけました。

 黒髪に色白の肌……。


「セナさん!?」


 セナさんは私を座った目で見つめると、はあ、とため息をつきました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る