第4話 鬼頭世南という男

「……ったく」


 ろくに説明も受けないでログアウトするなんて、初心者ってのはなんもわかってなくてこまるぜ。

 安地じゃなきゃシークに見つかって殺されかねないし、俺の話も聞かないし。


「ま、フレンド登録できたし、いっか」


 さりげなく握手を交わしといてよかったぜ。

 たまたま死んでたまたまリスポーン地点に来たおかげで、上玉ゲットだ。個人情報さえも緩い初心者だったのが玉に瑕だが、初心者は教えてやればいいだけだ。ちょいめんどくさいが、ソロプレイもそろそろ限界だと思ってたとこだしな。



▼▼▼▼▼



 俺は鬼頭世南きとうせな17歳だ。そこそこ頭がいいから、都内の私立中高一貫校に通ってる。

 今は《HIDE-AND-SEEK ONLINE》ってゲームにどハマり中だ。

 もともとゲーマーだったが、新しい要素のVRゲームが発売されたって聞いて、ベータの時から遊んでる。


 ベータの時はシークだったんだが、SPとTPが面倒臭くてハイドに乗り換えた。

 サバゲーでもないのにSPとTP管理があるってめんどくね? 食べる分にはいいが、戦闘中でも水を定期的に飲まないといけないのは流石にだるいぜ。

 で、ハイドに乗り換えた時に俺はプレイヤー名を《ルーク》から本名の《セナ》に変えた。


 何でかって? そりゃあもちろん、TSしたいからに決まってるだろ。

 HASOが人気になったのは、アバターの自由度だ。

 性別は自由に選べるし、身長も、ハイドになれば種族も自由。こんな最高なことはないぜ。

 

 で、俺はロリ化した。

 理由は単純だ。可愛い方が楽しいし、ハイドは隠れながら殺さなきゃなんねえから、身長は小さい方が有利だ。

 吸血鬼アバターも隠れスキルがあるってウワサだし、その隠れスキルを探しながらレベルとランキングを上げる毎日だ。


 現在ランキングは20位前後だ。ベータから来てる割には低いとか言うなよ!? ハイドに乗り換えたせいで引き継がれなかったってのと、本業もあってずっとはできてないだけだ。べつに、下手くそだからってわけじゃない。


 それにしても、リアルラックはそんなにないと思ってた俺だが、まさかレアアバターに遭遇するとはな。

 最初はロリだったから俺と同じ考えのやつかと思って声をかけたが、顔を見て驚いた。

 まずはその顔の完成度だが、その次に横に尖った耳と、白い肌だ。

 あんまり綺麗なんで、思わずゾワッと来たぜ。


 エルフも吸血鬼と同じで隠れスキルがあるんじゃないかって言われてる。

 まだ正式サービスも始まったばっかりで詳しいことはわかっちゃいねえが、高確率でその可能性が高いと俺は予想してる。

 高いリアルラックが要求されて不平等ではないかと言われているが、その方がギャンブル性があって面白いってもんだ。


 兎にも角にも、さっきのエルフアバター確か、るりといったか?が戻ってこない限りはまだ今日のプレイは始められない。

 初期地点なのに人気のないこのサルピス通りは待つのにはうってつけだが、薄暗いのが不気味で俺は好きじゃないんだ。


「あ、待ってくれていたのですね」


 早速、さっきと変わらない場所にるりが出てきた。


「まあな。で? あんたのお仲間はなんて言ってたんだ?」


 俺はゴクリとつばを飲み込んで、可愛いくせに無表情な女の返事を待つ。


「アバターを売ればいいのではないかと言われました」


「――――――は?」

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