第2話 ゲーム説明が長いですね
「どーも! ようこそ! ハイド・アンド・シーク・オンラインへ! 新規プレイヤーさんですね?」
暗闇の中にいたはずなのに、私はいつの間にか真っ白ななにもない空間に立っていました。
体の感覚はあるのですが、腕を動かしてみても腕があるはずの場所にはなにもありません。
どうやら、不思議なことが起こっているようです。
「あの? 新規プレイヤーさーん?」
ああ、誰かいたようです。気づきませんでした。
「あなたは誰ですか?」
「私はハイド・アンド・シーク・オンライン通称HASOのマスコットキャラクターで木の妖精のカクレちゃんです!」
私の目の前には、ビシッと敬礼するように手を額に当てる手のひらサイズの小さな女の子がいます。
なるほど、妖精ですか。
「新規プレイヤーさんの名前を教えて頂いてもいいですか?」
妖精さんと私の間に、不思議な板のようなものが現れます。
黒くて長方形で、おまけに宙に浮かんでいます。中央には、「新規プレイヤー」と書かれていますね。
タブレットの画面のようなので、ここに自分の名前を入力するのでしょうか。
「名前とは、フルネームですか? それとも、下の名前だけですか?」
「なんでもいいですよ。このゲームをプレイするときに自分が一番呼ばれたい名前がいいんじゃないですか?」
「なんでもいいが一番困るのですが……」
ぼやきながらも、私は「新規プレイヤー」と書かれたところをタップして、名前を入力するためのキーボードを出します。
そして本名を平仮名で「るり」と入れ、
「入力しましたよ」
「わかりました。るり、さんですね」
「はい」
「では、これからこのゲームの概要説明をしたいと思います。もうすでに説明書を読まれてご存知かもしれませんが、念の為簡単に説明に入りたいと思います」
妖精さんがくるくると白い空間を回り始めました。
何やら大きな画面が目の前に現れたかと思うと、妖精さんは、朗々と語り始めます。
「この《HIDE-AND-SEEK ONLINE》というゲームは、名前の通りかくれんぼをするゲームです」
なるほど、かくれんぼですか。名前の通りなら、わざわざ英語にせずかくれんぼオンラインとでもしておけばいいのに、と思わなくもありません。
「あ、今かくれんぼオンラインでいいでしょって思いましたね!」
「おや、考えていることがわかるのですか」
「ええ! もちろん! このフルダイブ型VRマシン《ドリーム》は、プレイヤーの全ての思考を拾い取ることでフルダイブを可能にしていますから! システムに組み込まれた私があなたの考えていることがわからないなんてことありません!」
「そうですか」
「……意外とあっさりしていて面白くありませんね。仕方がないので続けます。
このハイド・アンド・シーク・オンライン略してHASO……以降はこの名前で呼びますね、は先ほども言いましたが隠れんぼをするゲームです! が!」
「が?」
「通常の隠れんぼとは全く違うんです!」
「ほう。どこが違うのですか?」
「はい、順を追って説明させていただきます。
まず、基本から。このゲームはハイドつまり隠れ側、シーク鬼側に分かれてプレイをします。
それぞれの陣営で種族が違っていて、シークが人間、ハイドが人外になります」
「私は何をすればいいのですか?」
「隠れんぼですから、シークはハイドを探すことで、ハイドが隠れることです」
「本当に隠れんぼなのですね」
「違うのはこれからです。まずは、ハイドは隠れるだけではない、ということです。
探しにきたシークを殺すこともできるのです。まあ、シークも見つけたら殺しにかかってきますからね、自然と戦闘になるわけです」
「殺伐としたゲームなのですね」
「いえ! そうでもないのですよ。確かに、ハイドになれば暗い雰囲気の街が多いですが、シーク側にはサバゲーやRPGの要素も組み込まれていて、ハイドを探さなくとも楽しむことができます」
「そうですか」
ゲームのことはよくわからないので、教えてもらっても魅力は全く分かりませんね。
説明はまだ続くようです。
「これから陣営選択をしてもらうので、各陣営の詳細をお伝えしたいと思います。
まず、シーク側から。シークは人間で、ハイドの本拠地を探し出し潰すことがメインクエストとなります。ハイドとは違ってモンスターを倒したりダンジョンを攻略したりすることでレベルを上げるための経験値を手に入れられます。ですがシークはハイドとは違い、
で、次はハイドですね。ハイドはゲーム内では悪魔とも呼ばれていて、人間とは違う種族の亜人だったり獣人だったりがハイドとなります。シークとは別次元の空間で暮らしていますが、基本的にはシーク側の陣地に出てクエストをこなす、という仕様になっています。シークと同じでモンスターを倒すこともできるにはできますが、経験値がもらえないのもハイドの特徴です」
「では、どうやって経験値? というものを手に入れるのですか」
「よくぞ聞いてくれました! それが、先ほど言った探しにきたシークを殺害する、という方法です」
「なるほど」
「ハイドはシークを殺害すれば、シークがモンスターを殺したりハイドを殺したりして手に入れた経験値の二倍の量を手に入れることができます。しかし、シークに見つかった状態でキルしようとすると、ハイドはたちまち不利になります。ハイドはシークから隠れつつシークを滅亡させる、というのがメインクエストとなっています」
「なるほど、よく分かりませんね」
「とりあえず、ハイドもシークも敵陣営を殺しまくればいいって話ですよ!」
小さい女の子の割にはとても物騒なことを言うのですね。感心できません。
「では、陣営選択を始めたいと思います」
画面に映っていたメモリのようなものが消え、黒と白の四角が画面の中に現れます。
その四角の中には、黒い方に《HIDE》、白い方に《SEEK》と書かれています。
「これは何ですか?」
「あなたはそのどちらかを選んでください。念のため言っておきますと、黒い方がハイド、白い方がシークです」
「はあ」
説明を聞いてもよくわからなかった私に選ぶ価値はあるのでしょうか。
どちらが格別にいい、というのもなさそうでしたし。
困りましたね。
「よくわからないので、おすすめでお願いいたします」
「え、おすすめですか!? 変わってますね! いいのですか? 陣営選択はこのゲームで最大のお悩みポイントですよ?」
「ええ? なにかダメなんですか」
「いえ、そんなことはありませんけど……。じゃあ、こちらで勝手に決めておきますね。……そうですね、今はハイド側が圧倒的に少ないですし、ハイド側にしちゃいましょうか。いいですか? 後から変更はできませんよ?」
「お願いします」
「はい! では、プレイヤーネーム《るり》を《HIDE》に設定しました」
画面の中の黒い四角の方にヒビのような亀裂が入って、砕けて消えてしまいました。
私は少々驚きましたが、また次の画面が出てきます。
「次は、キャラクター生成に入りたいと思います。これを見てもらってもいいですか?」
今度はカラフルな画面です。
よく見れば、そこには様々な種類の髪型が簡単なカタログのように並べられています。
「これはなんですか」
「これは、あなたの見た目を決めるためのカタログのようなものです。あなたはハイドですから、同時に種族も選ぶことができます。こちらから自分で好きなように自分の顔を作ってください」
「好きな顔、ですか?」
困りました。ここまで種類があるとなると、てきとうに選ぶことはできなさそうです。
髪型もですが、色もたくさんあります。
私は自分で選ぶのが苦手なので、こうまで選択肢があると非常に困ってしまいますね。
「あの、これは"おまかせ"というのはないのですか?」
「これもおまかせにしちゃうんですか? 本当に変わってますね……。まあ、あるんですけど、おまかせ機能。私たちに全て任せてくだされば、種族も含めランダムで生成されます。ランダム生成にしますか?」
「じゃあ、それでお願いします」
「分かりました。実際の確認は降り立った時にでも確認してください。では、次は身長設定ですね。これはどうされますか? ほとんどの方は……」
「それもおまかせでお願いします」
「……分かりました。 では、次はステータス設定です」
まだ何かあるのでしょうか。
今度は画面の中に英語が書かれていて、それぞれの英語の横に0と記されています。
「最初は20ポイント付与するので、どれに振るか決めてください」
「またですか」
英語にはいくつか項目があって、どれを選ぶか迷ってしまいますし、どれが何のものなのか私には全く分かりません。
こんなに色々考えなければならないことがあるのなら、ちゃんと昨日調べてくるべきでした。
「これもおまかせできませんか?」
「無頓着すぎません……?」
「なんですか」
「いえいえ! 何でもありません! じゃあ、私の方で適当にふっちゃいますね! ……もう、この人の設定はいいですかね……。この後スキル選択がありますけど、これも適当に選んで放り出してしまいましょうか……」
「終わりましたか?」
「ええ!ええ! それはもう! では、最後の質問です。このあとチュートリアルというのがあって、私が案内しつつ冒険を始めることができますが、どうなさいますか?」
「はいかいいえで答えればいいのですね」
「まさかこれもおまかせとかいいませんよね?」
「遠慮しておきます」
「え?」
「妹が説明してくれると思いますので。もうずいぶん時間をかけてしまって妹も心配しているかと思いますので、始めてしまいましょう?」
「あ、そうですか。そこはおまかせしないのですね。なるほど、妹さんが。……この人の相手するの面倒くさそうだし、ラッキーかも? うん、そうですね。でしたら、もうお送りしますね。では、楽しいハイド生活を!」
妖精さんが手を振ると、黒いどろっとしたものが白い背景を覆っていきます。
なかなか粋な演出ですね。ゲームのことは何も分かりませんが。
「あ、でも、一番人気なのはシークだからハイド陣営に行っても妹さんいないのでは……?」
最後に妖精さんが何かを言っているのが聞こえましたが、よく聞こえませんでした。
なんと言っていたのでしょうか。
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