すべておまかせお嬢様のVRMMO初心者プレイ〜おまかせしたら人気ない陣営に入れられた上にロリ化させられたので隠れながらもキルしまくりたいと思います〜

猫目もも

第1話 ぶいあーるえむえむおーってなんです?

「ねえ、ハイド・アンド・シーク・オンラインって知ってる?」


 イヤフォン越しに聞こえた声に、私は首を傾げます。


「いいえ、知りませんが」


「私最近始めたんだけどね、それがすっごく面白くって! ねえ、るり姉も始めてみない?」


「それはどういうものなのですか?」


 オンラインとつくぐらいなので、ネットが関わっているものでしょうか。


「ゲームだよ! ゲーム! 今一番キテるVRMMO!」


「ぶいあーる、えむえむおー?」


「もうるり姉ったらそんなことも知らないの? まったく、ほんとこーゆうのにはとことん無頓着なんだから」


「それは楽しいものなのですか?」


「うん! そりゃあね!」


「あなたがそう言うのなら、少し考えてみます」


「さっすがるり姉! そう言うと思ってたよ! じゃあまた明日ね!」


「ええ、また」


 私はイヤフォンを外し、机の上に置きます。

 妹からの電話はいつもいきなりなので、少し焦ってしまいます。

 まあ、私が取るまで彼女は切らないので、焦る必要はないのですが。


「よいしょ」


 椅子から立ち上がり、クローゼットにしまっていた布団を取り出して畳の上に敷きます。

 一人暮らしを始めてもう2年目ですが、この布団を敷く作業は未だに慣れません。

 どこに敷けばいいかとか、どの位置に枕があった方がいいとか、私にはまったくわからないのです。


「さて、そろそろ寝ましょうか」


 深夜一時。少し勉強しすぎたような気もしますが、妹のおかげで区切りをつけることができました。

 妹にはあまり遅くまで起きないよういつも言っているのですが、私も人のことは言えません。

 つい時間を忘れて勉強してしまうものですから。


 とにかく、明日妹に会えるのを楽しみにしておきましょう。

 「ぶいあーるえむえむおー」というものも気になりますし。



────────────



 私、松井瑠璃まついるりはお金には余裕のある家庭の長女です。

 年は17で、2つ下の琥珀こはくという妹が一人いて、それはそれはとても仲が良いと自負しています。

 父と母には厳しく育てられ、なぜだか高校に上がったときに一人暮らしをしろ、と言われて家から追い出されてしまいました。

 幸い仕送りは十分にもらえたので、一人暮らしでバイトもせずのんびりと高校生活を送っています。

 ですが、来年高校生になる琥珀は一人暮らしはしなくともいいそうなのです。そこは少し不満ですが、琥珀のことは大好きなので気にしないことにしています。


 そんな私は、毎週末実家に帰って琥珀と休日を共にしています。

 彼女は中学三年生なので普通なら受験生といって遊んでいる暇もないのでしょうが、私と同じで彼女も中高一貫校に通っているのでその心配はありません。

 今日も、私は自宅から徒歩20分の実家に帰ってきました。


「るり姉おかえり! さ、いこ!」


 インターホンを押した瞬間、古めかしい玄関が開けられ、琥珀が顔を出してきました。

 満面の笑みを浮かべた彼女は、私が"た"と言う間もなく玄関から出て手首を引きます。


「どこにいくのですか?」


「ネカフェ!」



▼▼▼▼▼



「あの、これは?」


 琥珀に連れられ、私はネットカフェというところに来ていました。

 今は薄暗い部屋の中でふかふかの椅子に座っています。

 私はなんと言えばいいのでしょう、サングラスのようないかつい機械を手に、隣に座る琥珀に聞きます。


「これは、VRゴーグル! これでフルダイブできるの……って言ってもわかんないか」


「ええ、わかりません」


 さすが私の妹です。私が何を知っていて何を知らないのかよく把握してくれています。


「これを着けるとね、ゲームの中のキャラクターになれるの」


「それはどういうことです?」


「お姉ちゃん……」


 妹がジト目で私のことを見つめてきます。なんでしょうか。


「とりあえず! ダイブしよ! 話はそれから!」


「わかりました」


 私がいつまでも慣れない手つきでVRゴーグルを眺めているのを見て不安に思ったのか、琥珀が私の手の中からゴーグルをふんだくります。


「これは、こうやって着けるの」


 琥珀はそう言いながら私の頭にゴーグルをセットしました。一気に周りが真っ暗になり、何も見えなくなります。


「ソフトは、ハイド・アンド・シーク・オンラインって書いてあるのを選んでね。後はゲームのマスコットキャラが教えてくれるはずだから、さすがのるり姉でもできると思うよ」


「あの、何も変わらないのですが」


「それはるり姉が何も言ってないからだよ! なんか言わなきゃ」


「え、なんでもいいのですか? おすすめはありますか?」


「だったら、ダイブ!とかどう?」


「それだったら、ダイブインとかのほうがいいのではないですか? ダイブだと……」


「もう! そーゆうのいいから! ダイブでもダイブインでもどっちでもいいから、はやく遊ぼ!」


 暗闇の中、琥珀が叫んでいるのが聞こえます。

 ここは静かにするべき場所ではないのでしょうか。


「ダイブ」


 琥珀が早々にゲームを始めてしまったようです。

 さて、私もやってみるとしましょうか。

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