第12話

「素直じゃ生きられない」

第3章 3


 あの日は原因不明で車の中で意識を失っていた所をお客さんに発見された。

 三日間入院したが原因は解らなかった。癲癇でも無いらしい。若い世代の突然死があるらしいのだが俺は死なずに退院出来た。


 幸せを感じていると死が近づいてくるのかなと思った。


 佐智子が朝御飯を作っているだけで胸いっぱいの幸せ感じている。野菜を切っている佐智子を後から抱き締めて「俺は幸せだよ」と伝えた。


「私も幸せだよ」

「マキエを起こしてくるね」

「うん」

俺は佐智子にキスをしてマキエを起こしに行った。


 今日は休みにしてマキエを保育園まで送る事にした。保育園まで徒歩で十分くらいであった。黄色い帽子をかぶったマキエと手を繋いで保育園まで歩いた。マキエの暖かくて小さな手は力強く俺の手を掴んでくる。時折、俺を見上げて微笑むマキエ。たまにしか一緒に保育園に行かないから恥ずかしくも嬉しそうである。神田川沿いの桜には蕾が出来ている。まだ肌寒いが心地良い風が吹いている。マキエはアリンコの巣を見つける度に立ち止まって観察している。

「アリンコはね。10種類いるの知ってるか?」

「なにそれぇ?」

「働き者や皆を引っ張る者や怠け者や何も無い者が居てね。10匹いると自然と役割が出来るだよ」

「ふ~ん」

「マキエは保育園でどんな役割をしてる?」

「う~ん。役割って何?」

「自分から遊ぼ!って声をかけるか友達から遊ぼ!って声をかけてもらうのを待ってるか、からかな?」

「マキエから遊ぼ!って言うよ!」

「じゃあ、マキエは引っ張る者だね!リーダーだよ」

「リーダー格好いい!でもヒロ君とアキラ君と南ちゃんはいつもマキエをからかうの!」

「その子達は怠け者だな!」

「皆はアリンコなの?」

「人もアリンコも同じだよ」

「足が足りないや!」

「そのうち生えてくるよ!」

「やだ!きもい!」

「きもいね!」

マキエは列から離れて一匹でウロウロしてるアリンコを見つめている。

「この子は父ちゃんみたい!」

「なんで?」

「いつも一人でお仕事してるから!」

「そうだな!父ちゃんはママとマキエだけ傍に居てくれたら幸せだから他の人とは仲良しにならなくて良いの」

「ふ~ん!」

「よし!保育園おくれちゃうから行こう」

「うん!」

二人で手を繋いで保育園へ向かった。途中、何故かマキエの鼻歌はカードローンのCMの歌であったー。


「マキエ!その歌やめてくれ!恥ずかしすぎる!」

「はじめての♪ア〇ム!」

俺はハンチングを深くかぶった。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る