第11話

「素直じゃ生きられない」

第3章 2


 その日も俺は現場へ向かっていた。

 仕事終わりに母親と佐川さんと佐智子とマキエで食事をする予定であった。

 佐智子はマキエを母親に預けてスーパーへ出勤した。


 なんてこと無いいつもの日曜日ー。

 ビルと高速の間には青空が広がっている。


 祖父母、俺と佐智子が両親、マキエからみると普通の一般家庭を創ることが出来た。佐智子が居るから仕事も出来ている。マキエが居るから佐智子と仲良く出来ている。俺達の過去があるから母親と佐川さんとも仲良く出来ている。


 絆かぁー。


 のりおは独身で遊び回っている。良一も彼女はいるが結婚はしていない。

 俺と佐智子の十代は他から見たら激動かもしれないが俺達にとっては普通である。


 普通ってなんだー。


 今書いてる小説はさえない男と幽霊の恋物語である。そのストーリーの中では主人公が幽霊と恋するのは普通の流れである。現実も非現実も同じである。それなら今俺が見ている景色も現実でも空想でもどっちでもいい。佐智子と出逢えたことも現実で有り非現実でもある。マキエが笑ってるのも同じだ。


 目を閉じて朝になり目を開けると、もしかしたらあの独りぽっちのアパートかもしれないと不安が過る。今のこの現実を離したくない。

 小説で成功したらこの現実を失うことになる。それならば小説は佐智子と二人だけで楽しむだけで良いのかもしれない。


 そんな事を思いながら4車線の甲州街道を走っていたー。


 あ!なんだ?


 目の前が真っ暗である。

「え?なんで?まじか!」

声を出してるつもりだが出ている気がしない。

「さっき弁当食べてたよな…あれ?食べきったっけ?」

焦って身体を動かしてるつもりだが動いてる気がしない。

「なんだコレ!え?」

俺は恐怖と言うより頭がパニックになっている。佐智子とマキエで頭いっぱいになっていて自分の情況はどうでも良い。佐智子とマキエは居るのか……。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る