第5話

「素直じゃ生きられない」5


 俺と佐智子は母親と佐川さんに相談した。

 佐川さんは激怒して佐智子の家に行ってやると言った。母親も怒りを露わにしている。

 母親が本気で怒るのを初めて見た。

「アタシも真をまともに育ててあげられてないから余所の事は言えないけどさ!自分の娘にイタズラするなんて!アタシから児童相談所と警察に行ってあげるから佐智子ちゃんは真とここに居なさい!真の職場は就職遅らせるからね!いいでしょ?真!」

「あ!は、はい!」

畏まってしまった。

「アンタは男なんだから佐智子ちゃんを全力で守りなさいよ!」

母親はイライラしながら俺の煙草を吸っている。

「真君!俺と母ちゃんに任せておけ!佐智子ちゃんを守れるのは君だけだからな!」

「あい!!」

俺は敬礼をした。隣で佐智子も敬礼をしている。

「良いカップルだ。お似合いだよ」

佐川さんは微笑んでいる。


 急激な展開が起こっている。

 その日は時間が遅くなっているから俺と佐智子を残して母親と佐川さんは帰っていった。


「お母さんとお父さん格好いいね」

「そう見える?」

佐智子はほっとしているみたいだった。

 これからのことなんか解らないし、どうなるか考えても答えは出なかった。


 俺は自分の書いている小説を佐智子に見せることにした。

「小説を書いてるの?」

「うん。読んでくれる?」

「もちろんだよ!私は小説大好き!辛口でいい?」

「え?」

「川端康成とか夏目漱石、三島由紀夫とかも好き」

「ガチじゃん!俺ので楽しめるのか!?」

「辛口評価するね!」

「怖いよ!怖いよ!」

俺は急に不安になり佐智子の不敵な笑みを横目に暖かいココアを入れに台所へ逃げた。


 2時間ほど俺の作品に赤鉛筆で何やら書き込んでいる。

 俺は台所から煙草をくわえながら見ている。


「できたぁ!」

佐智子は原稿を高らかに上げてガッツポーズを決めている。

「できた?何が?」

「まずね!真の作品はスケベばっかりなのに言葉に色気が無いんだよ!フェラチオを“フェラチオ”って書いてんじゃん?色気が無いんだよ!もっと妖艶な表現にして!佐智子の濡れた唇が真の深層から起ち上がる新芽を包み込んだ……とかさぁ」

それを聞いて深層から起ち上がって来てしまった……。


つづく

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