第3話

「素直じゃ生きられない」3


 母親が再婚するから引っ越すと言ってきた。


 俺は「邪魔したくないから卒業するまでここに居たい」と言った。中学を卒業したら働きたいと思っていたから、母親と再婚相手にはどっかで暮らしてもらって俺はここで卒業まで一人で暮らす。その間だけ生活を助けてもらいたいと伝えた。


「卒業したら寮完備の仕事するよ」

「良いの?」

母親が心配そうに言った。

「良いよ。母ちゃんは幸せになりなよ」

俺はタバコをくわえながら言った。

「タバコ……一本ちょうだい」

俺は母親に煙草を一本あげて火を付けてあげた。

 母親が煙草を吸うのは小学三年以来見た。


 それからは週一で母親と再婚相手の佐川さんと三人でご飯を食べに行くようになった。佐川さんは無口な人だが母親が和んでいるから幸せにしてくれているんだなと俺も安心した。佐川さんの紹介で卒業後に仕事も見つけてくれた。仕事は居酒屋さんであった。


 卒業式ー。


 卒業式が終わりスポンスポンと卒業証書を抜き差ししながら土手のベンチに座っている。さっき沼田佐智子さんからこのベンチで待って居てと言われたのである。


「ごめん!遅くなった」

息を切らした沼田佐智子さんが到着した。

「話って何?」

「…あの、ボタンもらえますか?」

「はぁ?」

「第二ボタン…」

「何に使うの?」

「え?」

「ファミコン家だよ」

「あ!?違うよ!制服の第二ボタンだよ!好きな人のボタンが欲しいの!」

「え?」

「え?知らないの?」

「そうなの?俺のこと好きなの?」

「あ!そっち?…はい!好きです!」

俺は頭の中で良一から借りたエロビデオの映像が廻り廻った。一気に緊張が走って卒業証書を投げてしまった。

「どうしたの?」

「あ!いや!」

慌てて煙草をくわえたが手の震えでライターが上手く使えない。

 沼田佐智子さんが俺からライターを取り火を付けてくれた。その時に触れた手の感触に勃起してしまった。

 上手く煙を吸うことが出来ずに少し過呼吸気味に煙を吸って咽せてしまった。そして、沼田佐智子さんが背中を摩ってくれて更に手の温もりでカチンコチンになって立ち上がれなくなった。体育座りをしながら沼田佐智子さんを見上げた。


 体育座りをする隣に沼田佐智子さんも体育座りをした。

 二人で汚れた河川を見ながらしばらく無言であった。


「俺さぁ…引っ越すんだよ」

「え?」

「寮完備の居酒屋さんで働くことになってるの」

「居なくなっちゃうの?」

「うん」

沼田佐智子さんはジッと俺を見ている。

「遠い所?」

「うん」

「エッチしようか?」

「え?」

沼田佐智子さんは俺の手を取り立ち上がった。俺は前屈みで誤魔化しながら立ち上がった。

「だってしばらく会えなくなるんでしょ?初めては瀬川君がいいの…」

俺はあのエロビデオみたいな動きが出来るか自信がなかった。


 沼田佐智子さんと家に居る。不思議な感じだ。俺は緊張しながらコーラを用意した。そして、タイミングを図った。あのエロビデオの最初は、たしか質問から始まっていた。俺はコーラをテーブルに置いてから意を決した。


「スリー…スリーサイズは?」

「初体験は?」

「1番感じるところは?」

「好きな体位は?」

確かこんな質問から少しずつ女優さんに近付いて行ったはずである。

 俺は質問しながら沼田佐智子さんに近づいた。


「アハハハ!だめ!笑っちゃうよ!エッチなビデオ観すぎだよ!」

沼田佐智子さんは全てを見抜いていた。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る