第一章-1話  賢者の帰還

 俺には前世の記憶がある。

 だけどそれは、人に話しても信じてもらえない“異世界”での記憶だった。

 けれど、僅かながら前世では、今世の世界に居た記憶もある。

 俺は、前世の記憶があるとしても、普通の生活を送ろうとした。

 しかし、そんなことは願わなかった。

 何故なら、俺は前世で身につけた魔法やらスキルといった、いかにも異世界らしいものを使える状態で転生してしまったのだ。

 だから、何か困った事があれば、スキルや魔法をつい使ってしまったりしているからだ。

 そんなこんなで、普通より少し逸脱した生活を営んでいた。

 そのはずだった...。

 -某日-

冬の寒さがまだ残る外に、出るのを躊躇っていた。

 けれど、平凡な一日を過ごす為に、俺は寒さに身構えながら外に出る。


「翔琉〜、遅いぞ〜。」


 俺が玄関から出ると、寒い中待たせていた冴えない男・五十嵐 龍斗(いがらし りゅうと)が、俺に向かって言ってきた。


「ごめんごめん、外寒いから出るのを躊躇ってたんだよ」


 俺が少し笑いながら言うと、龍斗は聞くや否や呆れた顔をする。


「おいおい、その言い訳何度目だよ...もうちょいマシなものは無いのかよ。」


「いやいや、この言い訳はそんなに使ってないぞ?」


「いや、ここ最近ずっとじゃん...」


 呆れたというより、引かれてしまったので、言い返したら押し返されてしまった。


 「ハハ...まぁそんな事より、早く行こうぜ。」

 

 俺は話題を変えるべく、早く学校に行こうと促し、学校に向かって歩き出した。


「はいはい、そうですね。」


 龍斗はやれやれという身振りをして、俺の後について行く。


* * *


「お〜い、俺も混ぜろ〜!」


「うわっ!」


 学校に着き、龍斗と教室に向かって歩いていると、後ろから知っている顔が飛びついて来た。  

 俺は話していて、完全に油断していたので、思わず驚いてしまった。


「颯太!急に出てくるなよ!」


 あまりにも急だったので、つい怒ってしまった。


「別に良いじゃん、このくらい〜」


「キモい!抱きつこうとすんなよ!」


「へいへい、分かったよ〜だ。」


 彼の名前は天宮 颯太(あまみや そうた)。龍斗と違ってイケメンで頭が良くて、運動神経抜群で、更には生徒会長でもある為、男子構わず女子までもが、そのスペックに嫉妬するのだ。

 そして、こいつはモテる... すごくモテる。

 それなのに、彼女を作らないという神経がどうかしてる。

 

「そういえば颯太、彼女作らないの?」


 たまに颯太を、いじる為に使っている言葉を投げ掛けてみた。


「は〜...何度も言ってるけど、俺は彼女を作るより、この状況を楽しむのが好きなんだよ。」


 これは相当、クズだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る