第9話.職員会議
入学試験があったその日、受験生が全員帰った後の入学生選考は過去最大級に荒れていた。
「学園長!なんですかあの生徒は!」
そう最初に詰め寄ったのは第一試験会場で試験を見ていた試験官たちだ。他の試験官たちは何があったかを知らないため、唖然としている。
「何とはなんだ?あれは普通の受験生だが」
「普通の受験生がヒナギク様を一撃で意識不明に追い込めるわけがない!」
冷静に答える蒼狐に暑くなっていく試験官たち、そして今の試験官の一言を聞いた他の教師たちにも動揺が走る。
「あのヒナギク様が負けた?!」
「しかも一撃で?!」
などと騒がしくなっている。収拾がつかなくなったところで蒼孤は
「少し静かにせい!」
と教師たちに一喝した。すると先程まで騒がしかったものたちは皆何か言いたいことはあるようだが、とりあえずは黙る。
そして蒼孤は周りが静かになったのを確認し、
「さて、今回の入学生たちの選別と序列極めを開始しよう」
と切り出した。
「まず首席だが、宮本刹那で決まりだな」
「な!いえ、それはダメです。例年主席には王族がなると決まっております」
「そう言われてもな、王族よりも高い成績を宮本刹那が残しているのだから仕方なかろう」
「で、ですが!今年は多くの王族が入学します。各国の王女や王子が今年に入学してくるんですよ?!」
そう今年は偶然各国の跡取りたちが入学試験を受ける年だった。
「毎年、王族が主席や高い序列におったのはそのものたちがレベルの高い教育を受けておったから他のものよりも上にいただけだ。だが、今年はどうだ?実技試験では圧倒的な成果を残し、筆記試験では満点を記録している。こんな受験生が主席以外にあり得るのか?まあ他にこんな成績を残している王族の受験生がいるのであれば別だが」
「ぐ....」
蒼狐がそう言い放つと教師たちはたちは一斉に閉口してしまう。
皆が黙っているのを見て、
「宮本刹那が主席であることに不満であるものは他にいるか?」
蒼狐が教師たちに投げかけると数人の手が上がった。いわゆる上流階級の伯爵に位置するものたちだ。王族の次に高い立場に当たる。
「王家の人間を主席にしないと流石にその生徒もそうですが、圧力をかけられると思います。もう一度お考えを」
と短く1人の教師が言った。
それに対し、蒼孤は
「ふむ。あくまでも宮本刹那のためを思ってということか?」
「ええ、そうです」
教師がそういうと同時に蒼孤はクツクツと笑った。
「あ、あの学園長?」
笑ったことに疑問を思ったのか1人の教師が声を掛ける。
「いやすまんな。我ら如きがあやつの心配をするなんて烏滸がましいなと思ってな」
「は?」
その場にいるものたちは蒼狐が何を言っているのかわからないようで
「あの、学園長は彼のことを知っておられるのですか?」
1人の教師がそんな質問をすると、
「知っているも何もあやつは我の弟子だ」
とだけ答える。だが、この答えだけでまた騒がしくなってしまった。
「あの学園長に弟子がいるだと?!」
「王族がいくら頭を下げても弟子を取らなかったのに?!」
などと騒いでいる。
「いちいち騒ぐな」
と蒼狐が呆れながらいうと教師たちはまたも黙る。彼らも蒼狐の実力は知っているので彼女には逆らえないのだ。
「それでは彼に力を与えたのは学園長ということですか?」
と先程刹那の入学に反対の意を示した伯爵の教師が聞いてくる。
「そうだったらどうする?」
「なぜ、平民如きにそんな力を与えたのです!」
といきなり学園長に詰め寄ったのだ。
その言葉に対し蒼孤は
「どういうことだ?」
と怒りを隠しながら返事をする。
「この世界は生まれた時から上に立つべきものと下にいるべきものの立場が決まっているんだ!なのに平民如きに力を与えるなんて」
と言った。言ってしまった。蒼狐の前で行ってはいけないことを。普段ならこの教師を地獄の業火で焼き尽くしているが、今日は刹那と久々に話し、機嫌が良かった蒼孤はこう返した。
「そうか。それなら刹那は上に立つべき存在だな」
「は?そんなわけありません。平民如きが上に立つなど、それこそおこがましい!」
と教師は返したのだが、
「刹那に力を与えたのは我だとお主は言ったな」
「ええ、それが?」
「それは少し違う?」
「何が言いたいんですか?要点を言ってください」
自分の立場が危ないと思ったのか口調が少し荒くなってきている。
「そう熱くなるな。物事には順序というものがあるのだ」
そう言い、教師を落ち着かせると、
「刹那には確かに戦い方を教えたが、あやつは我と出会う前から我の数百倍の魔力を体内に秘めておったぞ?」
そう切り出した。
「が、学園長の数百倍?!そんなの貴族ですら絶対にあり得ないのに平民如きがそんな魔力を持っているわけない!」
「いいや、これは事実だ。その事実を知ったときにあいつに戦い方を教えておかないとのちに世界が滅びかねんと思ったため、我はあいつを弟子にした。というのが我らの関係だ」
その場には沈黙が広がっていた。やがてその沈黙を破り質問をした教師がいた。
「あ、あの。学園長とその宮本刹那はどちらの方が強いのですか?」
他のものたちもそれを聞きたかったのか学園長がどう答えるのかを静かに待っている。
「ん?それはもちろん刹那に決まっておるだろう」
とあっさりと蒼孤は言ってのけた。
すると先程まで黙っていた刹那に反対していた教師が
「あ、あり得ない!学園長が勝てないということは、その者は!」
そこで蒼狐が言葉を引き継ぎ、
「世界最強ということだな」
と言い放った。又も会議室に沈黙が宿る。
その沈黙を蒼狐が破った。
「それでは宮本刹那が主席になることに反対のものは?」
その声に反応するものはおらず、
「それでは今年の新入生主席は宮本刹那とする」
このように刹那の首席入学が決まったのだった。
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