第8話.試験終了
ヒナギクを思い切り吹き飛ばしてしまい、そのことに困惑しているのか、周りは模擬戦の試験中とは思えないほど静かになっている。この場には吹っ飛ばされて意識を手放しているヒナギク、吹っ飛ばした張本人である刹那、そして突然のことに理解が追いついていないのか唖然としているフレイア含めた受験生たちと試験官がいる。
最初に沈黙を破ったのはもちろん刹那だ。
「あの、これの結果はどうなるのでしょうか」
刹那のその言葉に唖然としていた一同の意識が返ってくる。すると今度は試験官たちの
「あ、ありえない」
「あ、ああ。油断していたとはいえ、ヒナギク様の意識を刈り取るなんて」
「ヒナギク様が負けるなんて」
などと言っている。受験生たちも概ねそんな感じだったが、フレイアは左右別の色の瞳でじっとこちらを見ている。そんなか刹那はいつも通りな口調でもう一度
「これで実技の試験は終わりでいいですか?」
と聞いた。
すると試験官は対して何も感じていなさそうな刹那に対し、
「あ、ああ。君は次の試験会場に行ってもいいが、一つ質問させてもらってもいいか?」
と切り出した。
「いいですけど。なんですか?」
「先程ヒナギク様と模擬戦をしたときに身体強化系の魔法を使っていたのか?」
そう、身体強化魔法が『たまたま』ヒナギクより強かったのかもしれないと試験官は思っていたのだ。だが、その万に一もありえないが、もしかしたらあるかもしれないと言う可能性にかけて試験官は質問をしたのだが、
「いえ、今の模擬戦でヒナギク様は魔法を使われていたようですが、俺は一歳魔法を使っていませんよ」
刹那のこの言葉にまたも試験会場がざわつく。そんな喧騒を放置して、
「質問に答えたので俺は先に筆記試験会場に行かせてもらいますね」
それに対し、試験官は
「あ、ああ。ここを出て左の廊下をまっすぐ行った突き当たりにある」
と言う声だけを絞り出した。
「はい。ありがとうございます」
と言う言葉だけを残し、会場の全員に注目されたまま、試験会場を後にした。
『やりすぎたか?まあいいだろ。もう自重するのも疲れてきたし、自由にやらせてもらうか』
と言う物騒なことを考えながら。
そして筆記試験は刹那にとってわからない問題もなく、一瞬で終わることになり、会場から出ていい時間になったら、さっさと出て、その日の試験は終わったのだった。
『会場から出る前に師匠に会ってから帰るか』
そう思い立った刹那は蒼狐がいる学園長室の前まで空間移動をした。
『ステルスを使って入るとまた何か言われるから普通に入るか』
そう思った刹那は普通に扉を開けた。
「おい。刹那よ。お前はノックという言葉を知らないのか?」
「めんどいから省いた」
「それにこの部屋には我以外には扉を開けられないように結界をはってあるつもりなのだが」
「ああ、それなら俺も通れるようにしてさらに強度を上げといたぞ」
「相変わらず滅茶苦茶だな」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めとらんわ!」
刹那に何を言っても無駄なのは修業時代に痛感しているので、もう言及することを諦めたようだった。
「それで刹那よ」
「なんだ師匠?」
「お主、やりおったな?」
「何が?俺ほど品行方正な弟子はいないぜ?」
と刹那は戯けてみせるが、
「馬鹿を言え、品行方正なやつが国で最強と呼ばれる男をぶちのめしたりせん」
と呆れたように蒼狐は言った。
「いや、あいつはあんたが俺のために呼んだんだろ?それにしては弱すぎたんだよ。それに国で最強ってなんだよ。世界最強のあんたがここにいるんだから実質的にあんたが国で最強なんじゃないか?」
と、当然の疑問を投げかけた。
「確かに我はこの国に住んではいるが、所属しているわけではない」
「なるほどね。よくわからん大人のシステムってことか」
「相変わらず興味ないことに対しては適当だな。」
「当たり前だろ?」
「なんでそこで自信満々になるんだ・・・。まあ、いいこれでお主が首席になる以外の道はないだろうしな」
「そうだな。めっちゃ目立ちそうだが」
「そうだな権力者たちもうるさそうだな」
「師匠、権力者はどうやって黙らせればいいか知ってるだろ?」
そう言って刹那は不敵な笑みを浮かべる。
「ああ、そうだな」
と蒼狐も不敵な笑みで刹那に返す。
「「権力者は力でねじ伏せる」」
と同時に言ったのだった。
「ああそうだったな。権力者がどんな卑劣な手を用いてきても、国が絡もうと我やお主に傷ひとつつけることはできないな」
と愉快そうに蒼狐は笑っている。
「そういうこと。だから俺も好きにやらせてもらうぜ」
「ああ、好きにしろ。弟子の不始末を拭うのが師匠の務めだ」
「おいおい。俺がやらかす前提かよ」
とこの後もくだらない会話を数回交わし、
「よし、そろそろ帰るわ」
「そうか。今日は久々に話せて楽しかったぞ」
「ああ、俺もだよ師匠」
「そうだ、刹那、お前、今宿はどうしている?」
「ん?この街に来たときについでに適当なところをおさえてきた」
「そうか。この学園は全寮制になっているから荷物の整理はしておけよ?」
「わかってるよ。あんたは俺の親か」
「親じゃなくて師匠ではあるな」
と、どちらからともなく笑いあう。
「というかそれじゃ俺がもう合格って言ってるようなもんじゃねえか」
「お主の結果で合格以外が与えられるとでも?」
「おお。これは学園長からのお墨付きがもらえるなんて光栄だなー」
「そんな棒読みは要らんわ」
「ま、返ったら荷物の整理するわ」
「ああ、そうしておけ」
「じゃあな師匠。入学したらまた会いにくるな」
「そんな簡単に会えるものではないのだぞ。我は。お前に言っても無駄だろうがな」
そんなことを言いつつも、蒼狐は嬉しそうだ。
「じゃあな」
と刹那はいい、その場から姿を消す。空間移動を使ったのだ。
「相変わらず。便利な魔法だな」
という蒼狐のつぶやきだけがその部屋に残った。
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