第6話.得意魔法
試験官たちの様子を不審に思ったのか受験生の1人が控えめに
「あ、あの。次の試験に行かないのですか?」
と質問した。
「あ、ああすぐにやるから待っていてくれ」
といい、次の試験の準備があるのか、ロークスの中に入っていった。
「次は得意魔法の試験ね」
フレイアが刹那に話しかけた。
「ああ、そうだな」
「あなたの得意魔法はなんなの?」
「それは今は教えられないな。お互いに入学できたら改めて教えてやるよ」
「それもそうね。楽しみにしておくわ。お互いに頑張りましょう」
そのセリフを最後にフレイアは離れていった。
そしてそれからしばらくして準備を終えたのか試験官たちがロークスから出てきた。
「只今より得意魔法の披露をしてもらう。試験官は魔力測定の時とは別のものが行うようにする。」
そんな言葉に刹那は
『十中八九、他の試験官も俺の実力を確かめたいんだろうな』
とそんなことを考えていた。
「それでは先程のロークスの前に並んでくれ。試験官はすでに中にいるので入ったら指示に従うように」
そういうと他の受験者たちは先ほどと同じように並び出したが、刹那は
『まあどうせまた同じようなことになるだろうし、最後尾に並んどくか』
と考え、最後尾に並んだ。
「それでは一番前の者から中に入るように。基本的に出入りは先ほどと同じとする。」
その掛け声と同時にロークスに入口が現れ、一番最初に受ける受験生たちが消えていく。
刹那は今度も受験生たちの実力を確認するため、目に魔力を集めた。ロークスの中は基本的に見ることができないが、ロークスにかけられた以上の魔力を目に集めると中を見ることができる。まあ戦闘などではそのようなことに魔力を多く使ってしまったら、魔力がすぐに枯渇してしまうため、この技を知っているものは少ないのだが。
『さて、中はどうなっているのかな』
そう考えながら刹那が中を見てみると、
『ふーん。あれは魔力で作ったカカシだな。攻撃魔法が得意なものはあれに魔法を打つわけか。』
中には青年男性一人分ぐらいの身長のカカシと
『そして付与魔法が得意なやつ用の木で作られた武器か』
木で作られた槍や剣などの武器が置いてあった。
『おそらく支援魔法の場合は試験官にかけるんだろうな』
と、ぼんやり考えていると、1人目の試験が始まり、受験生が魔法を打った。
『あれはファイアーボールだな。試験で初級魔法って正気か?』
刹那は知らないが、刹那ほどの年で魔法を普通に使えればエリートなのである。魔力は多くても魔法が上手く発動しないなんてことはよくある。現に他の受験生も
『ファイアーボールにウォーターボールにダークボール、支援魔法は超初級の強化だけか。レベル低すぎね?』
そうみんな初級しか使ってないこれはもう見る価値ないかなと思いながら別の列の試験を見てみるとフレイアが試験を受けるとこだった。
『あいつは他の奴よりも圧倒的に魔力量が多かったからな。さて、どうする?』
刹那はフレイアの試験を見ることにした。
そしてフレイアが魔法を発動された直後、ドゴォォンと鈍い音と試験会場全体が震えた。他の受験生はとても驚いているみたいだが、刹那は
『へえ。あれはインフェルノか。火属性魔法の上級じゃねえか。やっぱりやるなあいつ』
インフェルノは魔力量が飛び抜けたものが使えば全てを焼き尽くす業火である。フレイアも魔力量は多い方だが、あれ以上に多いものが使ったらここら一帯が、火の海となっていただろう。
そう考えていると、ついに刹那の番が来た。
ロークスの中に刹那が入ると試験官から
「得意魔法は攻撃魔法か支援魔法か付与魔法のどれだ?」
という質問が来た。先程の魔力水晶の件もあるので、試験官の表情は硬い。
「攻撃魔法です」
そう答えると試験官の表情が歪む。
『そんな嫌そうな顔しなくてもいいだろうに』
と刹那が試験官に対して思っていると、
「それではあそこに見えるカカシに5割程度で魔法を打ってくれ」
『5割程度ねえ。全力で撃つったらまずいと思ったんだろうな』
そう他の試験生には全力でと言っている。
『まあいいか。本当は5割も出すつもりはなかったんだがな』
そう刹那は1割程度の魔法でも余裕で首席になると思っていたから、5割も出すつもりはなかった。だが、フレイアの魔法を見て、少しだけ実力を見せてやることにした。まあ実際は封印をした状態での5割であるから実力の1%にも満たないのだが。
「それじゃ、行きます。」
「ああ。」
そんな掛け声とともに刹那は
『ヘルフレイムボール』
と心の中でこの世に存在しない魔法を唱えた。
その瞬間ズドンとカカシは一瞬で燃え尽き、ついには試験会場にあったロークス全てが一瞬にして消しとばされた。
そして、土煙の中、他の試験官や受験生が呆然としている中、自分を担当した試験官は魔力障壁で守られていた。声を失ったように無言で虚な目をしているが。そんな様子の試験官に刹那は、
「あの、これで大丈夫ですか?」
と声をかけた。その一言で他の受験生や試験官も理解するさっきの魔法はこの少年が撃ったのだと。
「あ、ああ。だ、だが5割でと言ったはずだが」
声を震わせながらそんな試験官に対して
「ええ、5割で打ちましたよ」
と飄々と答える。
「あれで5割・・・」
とまたも呆然としてしまった。この場にいる誰もが、あのフレイアでさえ目を見開いて驚愕しているのに対して刹那は今更
『やりすぎたな』
と確信した。
すると、試験官が
「こ、この魔力障壁は君が貼ったのか?」
と聞いてきたので
「はい。あの程度のロークスだと俺の5割の魔法に耐えられないことは分かっていたので」
と答えた。
「いや、あれでもこの国最高峰レベルのロークスなのだが」
と虚な目でつぶやいている。しかも本来あんな規模の魔法を撃ったら魔力が枯渇し、歩くことすらできない。他者を魔力障壁で守るなんてもってのほかだ。
このまま押し問答をしていてもしかたないので
「これで得意魔法を見せるのは終わりでいいですかね?」
と刹那は試験官に問いかけた。
「ま、待ってくれ。驚きすぎてわからなかったが、君、魔法を詠唱してなくないか?それにあの魔法はなんだ?どの本でも見たことないのだが。」
そう普通は魔法名を唱えないと魔法は発動できないのだ。
「魔法名を唱えなくてもいくらでも魔法なんて撃てますよ。ほら」
と、刹那は手のひらに火の塊を作ってみる。
「それとあの魔法は俺が作ったものです」
「唱えなくても発動?作った?」
間違いなく歴史を覆すような発言だったため、試験官も混乱している。その様子を最初は面白そうに見ていた刹那だったが、早く終わって欲しかったため、
「もういいですか?」
と少し苛立ちを含ませて言った。
「あ、ああ」
と力ない声で試験官が口にしたのを聞くと刹那はその場を後にした。
他の受験生が驚愕しながらこちらを見ている場所に近づくと、フレイアが駆け寄ってきて
「ねえ、あなた何者?」
と聞いてきたので、
「ただのこの世界に飽きた人間だよ」
と自嘲気味に笑って答えた。
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