第3話.学園長

学園長室に入った刹那は中にいた人物が予想通りの人物であったことを理解した。

「久しぶりだな。師匠」

「?!そ、その声は刹那か?」


とても驚いてこちらを見てきたのは覇王学園学園長であり、刹那の師匠でもある新堂蒼狐そうこ。青髪のロングヘアに翡翠の瞳をしており、身長は156cmと小柄な女性だ。胸はそこまで大きくないが本人は発展途上だからと言っている。彼女は吸血鬼族と言って地上に存在する種族の中じゃ力や魔力が最も高く、敬われるべき存在だ。そしてそんな存在なのに名前がなぜか和風なのである。


「いつも言ってるであろう?お主のステルスは我ですら見破れないのだから、驚かすなと」

「はいはいすんませんね」

「ちょっとは反省しろ。全くその図太い神経は誰に似たんだ」

「多分師匠譲りだと思いまーす」

「減らず口を叩くなたわけ!」

「まあそんなくだらないことは置いといて」

「置いといていい問題でもないんだがな。そういえばこの部屋の周りには魔力妨害結界が貼ってあるから我以外のものは魔法を使用できないはずなのだが?」

「俺にそんなもの効くと思う?」

「相変わらず化け物だな。」

「失敬な!これでも列記とした人間だぞ!まあ最近は自分でも怪しくなってきたんだが」

「怪しくなってきたのか...。それで入学試験前になんのようだ刹那よ」


学園長室にきた目的を普通に忘れていた刹那である。

ちなみに刹那と蒼狐は刹那が7歳の時から12歳までの5年間ともに修行の日々を過ごしていた。

「なんのようだじゃねえよ。突然やらければならないことを思い出したからあとは1人で頑張れとか意味不明なことを言い残してどっか言ったと思ったら、何やってんだ?あんた。」

「何って見ての通り学園長だが?」

「ならそう言ってからいけや。お前がいなくなってから一年は生活をするのが大変だったんだぞ」


言い忘れていたが、刹那という少年は孤児である。物心ついた時には親がおらず、実質的な親代わりは蒼狐なのである。


「なんだ?それは我がいなくなって寂しかったと言うことか?」

「今のをどう聞いたらそう言う解釈ができんだ?このやろう。金がなくて大変だったんだよ。まあ今は金なら使いきれないぐらいあるがな」

「ふん。それならよかろう」

「よくねえよ。結果論じゃねえか。そしてなんだ?あの手紙は。入学試験の1日前にあんな手紙送ってくるとか正気じゃねえだろ」

「弟子のことを信じておったのだよ。お主ならあの距離だったとしても一瞬で移動できるであろう?」

「まあ確かにそうだけどよ。その前になんで俺の家知ってるんだ?」


そう刹那が一番聞きたかったのはこの部分だ。前に修行していた場所とは全く別の場所に刹那は従居を構えていたのにも関わらず、蒼狐に見つかったのはなぜかわからないのだ。


「ん?ああお前の魔力をたどった。」

「は?たどれるほど魔力を漏らしていないはずなんだが。封印もあるしな」

「いや我ほどの強者にもなるとお主の魔力もわかる。これでも師匠なのでな」

「そうかい」

そう返事したっきり2人の間に僅かな沈黙が流れる。

その沈黙を先に破ったのは蒼孤だった。


「何も聞かないのか?」

「なんだ?なんか聞いてほしいことがあるのか?」

「いや、そう言うわけではないが...」

「ま、もう過ぎたことだしなんでもいいさ。師匠にもなんか理由があったんだろうしな」

「そうか。時が来たらお前をこの学園に呼んだ理由も含めて話すとしよう」

「ああ。頼むよ」

「お前は昔っから我しか身寄りがいない」

「どうした藪から棒に」

「だから学園生活を楽しんでほしい。我から言えるのはここまでだ」

「言われなくても俺はいつも通り楽しませてもらうよ」


なんだかんだ言って蒼狐も刹那のことを気にかけていたらしい。

「それから。入学試験では主席を目指せ。」

「なぜだ?」

刹那は訝しげな目で蒼狐を見る。


「面白そうだから」

「おい」

「まあそれは理由の中の8割程度しか占めておらんから安心しろ」

「ほとんどがその理由じゃねえか」

そう刹那が返すと蒼狐はクツクツと笑い、もうあと2割の理由を話し始めた。


「そうだな。あとは我は今のこのくだらない社会の縮図を壊したいのだ」

「というと?」

「今の社会は力を持たない上流階級のブタどもが偉そうにしておる。我はそういう社会が嫌いなのだ。だからお主にはその我をも大きく超える力を持つお主、『最強』の刹那に力を誇示してほしいのだ」

「『最強』ってなんだよ。そんなダサい二つ名いらねえよ」

「我が考えた名前をダサいとか言うな」

「あんたが考えたんかい。安直すぎるだろ。確かに俺は強いけどな。これは自慢するほどのことではなくただの事実だ」

そういうと刹那は少し遠い目をした。そんな刹那を蒼狐は物憂げに見つめ、こう続けた。


「それにこの学校には決闘と言うシステムや年に一回世界中の学校から代表者同士を戦わせる闘争祭がある。それに出るにはそれなりの力を誇示しておいたほうが得だぞ?」

「決闘に闘争祭ね。確かに楽しそうだが」

「そうであろう?お主が望む強者と出会えるかもしれんぞ?」

「そうだな。まあ加減しつつ首席を目指してみるさ」

「なら安心だな。お主は力を制限して、かつ加減していても地上最強と呼ばれる我が倒すのに手こずるほどの力を持っておるからな」

「お褒めに預かり光栄ですってな」

「茶化すなたわけ」


そんなことを言いながら2人してほぼ同時に部屋にある時計を見る。

「そろそろ入学試験の時間だな」

蒼狐がそのように切り出すと、

「ああ。そろそろ会場に行くわ」

と刹那が返し、ステルスを使用し、姿が見えなくなる。

最後に刹那は

「学校生活楽しませてもらうよ。ありがとな師匠」

蒼狐に向かってそう言った。

「ああ。」

蒼狐は感動したような顔になってかろうじてそれだけ返した。

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