第145話:「進軍:3」
※推奨BGM:Björneborgarnas Marsch
元々はスウェーデン軍で使われた曲で、フィンランド軍では現在も使われているという行進曲です。
明るく勇ましい曲調の中に、悲壮感のようなものが感じられて好きです。
読者様にも、気に入っていただけると嬉しいです。
以下、本編です
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エドゥアルドは奏でられる行進曲と共に、ポリティークシュタットへと向かって進んだ。
つき従うのは、100名にも満たない軍勢。
だが、エーアリヒやフェヒターではなく、力のないエドゥアルドを信じて戦った、精鋭たちだった。
エドゥアルドとその軍隊は、集落を超え、街道を進む。
道行く人々はなにごとかと驚きながら道を外れて進路を
その、戦塵にまみれた軍隊が、ノルトハーフェン公爵によって直卒される軍隊であるとは、誰も一目では気づけないからだ。
ノルトハーフェン公爵家の旗を目にすれば、乗馬している者は下馬し、馬車に乗っていた者は馬車から降りて、エドゥアルドたちに向かって姿勢を正し、帽子を取って敬意を示した。
誰も、エドゥアルドの姿など知りはしなかったが、ノルトハーフェン公爵がそこにいるという旗を見れば、相応の敬意を示す。
だが、同時に、エドゥアルドに道を譲った人々は、興味深そうな視線をエドゥアルドへと向けていた。
まだ15歳にもならない少年。
それが、当代のノルトハーフェン公爵の姿であり、多くの人々にとってその姿を見る機会などない。
だから人々はエドゥアルドの姿を一目見ようと、好奇心を隠そうとはするものの、無遠慮にその視線を向けてきた。
エドゥアルドは、馬上で堂々と胸を張りながら街道を通過し、人々からの好奇の視線を受け止めた。
これが、エドゥアルドにとって、自身の姿をノルトハーフェン公国に暮らす人々に示す、お
恥ずかしがることなどなく、おじることなどなく、凛とした姿をエドゥアルドは人々に見せつける。
エドゥアルドは、年若い、年少の公爵だ。
その姿を目にした人々はエドゥアルドの若さを改めて思い知らされ、中には、本当に一国を治めていくことができるのかと不安に思う者も出てくるだろう。
しかし、エドゥアルドはもう、自分の若さを気に病んだりはしなかった。
エドゥアルドは、自分を信じて誠実に仕え、戦ってくれた人々のために、良き公爵になろうと覚悟を固めているからだ。
そこに、年齢なんて、関係ない。
足りないモノはこれからも学び続けていつか必要なだけ身につければいいし、もしエドゥアルドの手には余ることでも、誰かを頼ればよい。
今のエドゥアルドは信じられる人々がいて、頼ることができるのだ。
だからエドゥアルドは、前だけを見ていた。
自分が1人ではなく、支えてくれる人々がいると知っているから、エドゥアルドは自身の足元を気にしたり、背後を振り返ったりしなくても済む。
やはり、エドゥアルドの若さに不安を抱く者はいる様子だった。
中には、エドゥアルドたちの
だが、進軍するエドゥアルドの姿を目にした多くの人々は、そこに、確かにノルトハーフェン公爵が、一国を治める覚悟と器量とを兼ね備えた国家元首がいることを感じ取っていた。
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やがて、ポリティークシュタットの城壁が見え、その市街地が見えてくる。
エドゥアルドたちが進軍してきていることはすでにポリティークシュタットの人々の知るところとなっており、街は
ノルトハーフェン公爵が自ら兵士たちを率いて向かってくるとは、いったい、なにごとなのか。
新しい戦争が始まるのか、それとも、国内での内戦が始まってしまったのか。
人々は戦々恐々としながら、通りから姿を消して身を隠し、エドゥアルドたちの進軍を見守っている。
ポリティークシュタットの市街地に入る前に、エドゥアルドの前にミヒャエルが馬を進めて、公爵に向かって一礼した。
そしてエドゥアルドがうなずき返すと、ミヒャエルは馬を走らせ、自らが先ぶれとなって市街地へと向かって行った。
そして、市街地の入り口で馬を止めると、ミヒャエルは周囲で息をひそめている人々に届くように声を張り上げる。
「民衆よ、聞け!
ノルトハーフェン公爵、我らがエドゥアルド殿下は、今日、反乱を企てたフェヒター準男爵とその手勢により、攻撃を受けた!
しかし、エドゥアルド殿下はこれを見事撃退され、すでにフェヒター準男爵はエドゥアルド殿下が捕えている!
反乱は、すでに鎮圧されている!
今、エドゥアルド殿下が軍を直卒して向かってきているのは、ノルトハーフェン公爵として、その居館であるヴァイスシュネーへと入り、このような反乱を起こした者たちに正当な裁きを加え、そして、自ら政務をとり、公国の歪みを正すためである!
公爵殿下は、我らに約束された!
功ある者は必ず賞し、罪ある者は必ず罰すると!
そして、公国の民が、安寧に、豊かに暮らすことのできる、王道楽土を築くと!
我らは、そのエドゥアルド殿下の軍である!
公国の民衆に害を加えることはない!
人々よ、安心して、エドゥアルド殿下の入城を迎えられよ! 」
ミヒャエルに与えられた役割は、エドゥアルドの進軍の意図を人々に明らかにし、同時に、エーアリヒに、フェヒターという生き証人がいることを知らしめるためであった。
人々はそのミヒャエルの言葉を聞いて、戦闘が始まるわけではないと知って安心したものの、しかし、隠れている場所から出てくることはなかった。
エドゥアルドを迎える歓呼の声も、歓迎する紙吹雪も、楽器の音もない。
人々はまだエドゥアルドがどんな人物であるかをよく知らず、これが歓迎してよい状況なのかわからず、ただただ、戸惑うことしかできないからだ。
「まったく。我が公国の民は、殿下という人をまだ知らぬようです」
ミヒャエルに追いついて来たエドゥアルドに向かって、ミヒャエルはやや物足りなさそうに肩をすくめてみせる。
せっかく声を張り上げたのに、人々の反応が薄くて残念がっているのだろう。
「いいさ。……それはこれから、いくらでも示せるだろう」
エドゥアルドは軽く微笑みながらそう言うと、再びミヒャエルを加えて、ヴァイスシュネーへ向かって進み続けた。
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