第141話:「一騎討ち:2」
エドゥアルドとフェヒターの間での決着は、ポリティークシュタットの城壁の上で一度、ついている。
だが、あの時は、真剣による勝負とはいえ、決闘であって、どちらの実力が上なのかがはっきりとすれば、それで終わるものだった。
互いの命が尽きるまで戦う、[戦争]ではなかった。
今回は、違う。
この戦いの決着とは、エドゥアルドかフェヒター、そのどちらかが倒れることだった。
特にフェヒターは、エドゥアルドへの殺意をむき出しにしていた。
彼はなんの
エドゥアルドは、押され気味だった。
それは、彼が内心では、フェヒターを生きたまま捕え、生き証人として一気に
だが、それだけではなく、フェヒターの剣術がよく
ポリティークシュタットの城壁の上では、フェヒターには油断と
フェヒターが振るうサーベルは鋭く、次の攻撃を予想することが難しく、エドゥアルドは身を守るだけでも精一杯になっていた。
フェヒターは、休むことなくエドゥアルドへと攻撃を続けた。
彼が身に着けているありとあらゆる剣術の技を駆使し、エドゥアルドに彼のすべてをぶつけている。
フェヒターには、雑念がなかった。
エドゥアルドが[この先]を考えているのに対し、フェヒターは、今、この瞬間のことだけを考えている。
そのことも、エドゥアルドが押され気味の一因となっていた。
(反撃に、転じなければ! )
そんな焦りが、さらにエドゥアルドを追い詰める。
「グっ!? 」
エドゥアルドの二の腕のあたりに、鋭い痛みが走る。
エドゥアルドの首を狙ったフェヒターの突きをかろうじてかわしたのだが、その切っ先がエドゥアルドの二の腕を切り裂いていた。
傷は、浅い。
戦い続けることに、支障はない。
だが、エドゥアルドは自分が押されていることを自覚して、額に冷や汗を浮かべることになった。
「死ね、小僧! 」
フェヒターは自身の剣がエドゥアルドにダメージを与えたことに喜び、
だが、エドゥアルドは、フェヒターから与えられた傷の痛みで、冷静さを少し取り戻すことができていた。
フェヒターの剣術は、よく練られたものだった。
それは、フェヒターが口先だけの、派手好きで自尊心の大きいだけの人間ではないことのあらわれではあったが、それだけに[見慣れた]ものだった。
フェヒターが使っているのは、タウゼント帝国でよく用いられている剣術で、エドゥアルド自身もよく見知っている。
だから、冷静さを取り戻してみると、フェヒターの攻撃は読みやすかった。
それだけではなく、フェヒター自身も気づいていないクセのようなものがあり、フェヒターが使ってくる剣の技の組み合わせには、一定のパターンがある様子だった。
(見えて来た! )
エドゥアルドはフェヒターのクセを見抜くと、反撃に転じた。
エドゥアルドは、ここしばらくの間、ヴィルヘルムから剣の鍛錬を受けていた。
得体のしれない人物であるヴィルヘルムは、タウゼント帝国の剣術だけではなく、諸外国で独自に発達した剣術を使いこなす。
だからエドゥアルドは、フェヒターが知らないような剣術を、まだマスターしたとは言えないものの、知っていた。
真剣での戦いというのは、一回勝負だ。
剣は相手を殺傷するために作られたものであり、急所に一撃でも入れば、相手を一瞬で絶命させることもできる。
そして、そういった戦いの場では、いわゆる[初見殺し]が有効だった。
自身も会得している技であれば対処法もわかるが、一度も見たこともないような技を前にした時には、
「なにっ!? 」
エドゥアルドがくり出した異国の剣術の技に、フェヒターは対処できなかった。
彼はエドゥアルドの攻撃をかわしはしたものの、体勢を崩している。
初見殺しは、1度しか通用しない。
優れた剣士であれば1度見た技には対処方法を思いつくだろうし、フェヒターはそうするだけの剣術の技量を兼ね備えている。
だからエドゥアルドは、この瞬間にすべてをかけて、前に出た。
「フェヒター!!! 」
エドゥアルドはそう叫びつつ、体勢を崩したフェヒターの手に向かってサーベルを振るった。
エドゥアルドの剣が、フェヒターの腕をとらえる。
よく手入れされていたエドゥアルドの剣は、フェヒターの手袋ごとその皮膚と肉を切り裂き、フェヒターの手から剣を取りこぼさせていた。
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