小解説:作中で銃に施された細工について

 お疲れ様です。熊吉です。


 読者様からすれば「知ったこっちゃないよ」かもしれませんが、熊吉はもう、重度のミリオタでありまして、どんな医者にかかっても匙を投げられる、そういう状況であります。


 そんなミリオタがあれこれ考えて行った銃への細工について、ここではなるべく簡単に、雑学なども交えながらご説明させていただきます。


 まず、知っておいていただきたいのは、「ミニエー弾」というモノについて、です。


 日本でも、この弾を使った銃が、明治維新の際に「ミニエー銃」として大量に使用されたので、用語自体はミリオタでなくともご存じである方が多くいらっしゃるだろうと思います。


 これは、フランスのミニエーという人が考案し、19世紀半ば(作中の時代は19世紀初頭であるので、半世紀ほど早い登場となっております)に実用化された弾丸で、装填の難しい前装式のライフル銃のために開発された、画期的な弾でした。


 ミニエー弾は、ドングリ状の形で、その底部にはくぼみが作られています。

 このくぼみがもっとも大切なことでして、ミニエー弾をミニエー弾たらしめているものであります。


 後装式の銃や大砲の実現が、密閉性の確保ができず、使用者の側に発射時の火薬の燃焼ガスが噴き出してくる危険が存在することから、実現が難しかったというのは、作中でご紹介いたしました。

 そのために、当時の人々は前装式の銃火砲をもっぱら用いていたのですが、この前装式では、ライフリングを施したライフル銃の運用が著しく困難なものとなるということも、作中ですでにご紹介させていただいております。


 ライフル銃では、発射時に弾がライフリングにしっかりかみ合って、回転力を得られることが必要で、このためにライフリングにしっかりとかみ合う、銃身の内径よりもやや直径の大きな弾薬を使う必要があり、前装式のライフル銃ではこのために再装填が難しいということも、ご紹介させていただいております。


 ミニエー弾とは、この、再装填が難しいという、前装式ライフルの欠点を解消したものとなります。


 ミニエー弾は、ライフル銃の銃身の内径よりも直径が「少し小さい」弾で、このために、前装式のライフル銃であっても容易に装填することができました。


 それだとライフリングとかみ合わないじゃん、となりそうですが、そこで効果を発揮するのが、ミニエー弾の底に作られたくぼみ。


 ミニエー弾は発射される際、火薬の燃焼ガスをこのくぼみに受け止めることで、若干「膨らみ」ます。

 このような性質を持つことで、ミニエー弾は前装式のライフル銃の再装填を容易とし、かつ、弾丸をしっかりライフリングとかみ合わせるということを可能としました。


 アメリカ南北戦争で大量の死傷者が生まれた原因は、このミニエー弾の登場により、兵士たちが装備する銃がそれまでのマスケット銃から前装式のライフル銃へと刷新されたためでした。


 マスケット銃は、ご存じの方が多いように、精度という面ではかなり悪いです。

 銃を固定し、まったく同じ照準で発射したとしても、同じところに弾丸が命中することはまずありません。


 しかし、ライフル銃はマスケット銃と比較して精度が良好で、したがって有効射程も大幅に伸びることとなりました。

 「当たるも八卦、当たらぬも八卦」といった状態だったのが、「撃てば当たる」に変わったわけです。

 南北戦争で多数の死傷者が生まれるようになったのは、ミニエー弾の登場によって銃の有効性が飛躍的に高まったからです。


 そこで、熊吉は考えました。

 もし、ミニエー弾の直径を、それまでの弾丸と同じように、ライフル銃の銃身の内径よりも「少し大きく」作ったら、どうなるだろう?


 もともとぎちぎちに作られた弾丸は、発射される際にさらに膨張し、銃口の内部を完全にふさいでしまうのではないか。

 そして、銃口の側に向かうはずだった火薬の力は、詰まった弾によって遮られ、銃身の後方へ、使用者の側へと噴出するのではないか。


 こうして、作中で銃器職人ガンスミスが細工を施した、「現実でもちゃんと暴発するはずの銃」が生まれました。


 別に、ストーリーの本筋とはまったく関係ないことでありますが、ミリオタとしてその辺ちゃんとしておかないとしっくりこないし、熊吉はオタクですのでそれをしゃべりたいんです。

 そして、知っていただきたいんです。


 なんとなく名前だけは知っている、ミニエー弾、あるいはミニエー銃について。

 そして、熊吉は熊吉なりに、苦労して、調べて、考えているんだということを。


 これが、できれば評価につながるといいなーなんて思ってもいるのですが、読者様に楽しんでいただけてなんぼでありますので、高望みはしないで熊吉はひたむきに頑張るだけです(でもできれば高評価・ブックマーク・フォロー、お願いします……! )。


 19世紀の銃の進化はすさまじく、最初はまだ前装式マスケット銃が主力であったものが、ミニエー弾を使用する前装式ライフル銃である各種のミニエー銃に代わり、次いで後装式のライフル銃へと変わっていきます。

 それがさらに、ボルトアクション式の、WW1、WW2で主力とされ、現代でも用いられる銃へと進化していきます。

 それまでは数百年に渡って滑腔式のマスケット銃が主力だったわけですから、19世紀の銃器の発展は著しいものです。


 幕末のころに日本に流入してきた銃は、ミニエー弾を使用するイギリスのエンフィールド銃や、ゲベール銃と呼ばれるすでに旧式化した滑腔式のマスケット銃など多種多様なもので、19世紀の銃火器の急速な発展に伴って各国で余剰となっていた様々なタイプの銃を、日本の各藩が必要に迫られて輸入した形になります。

 後装式ライフル銃などを輸入しようという動きもあったようですが、さすがに主力小銃を輸出する余力のある国家は少なかったらしく、日本への輸入は限定的なものとなっているようです。

 日本の歴史ともかかわっていることで、銃の進化というのは面白いです。


 特に大きいのが、それまでの黒色火薬と比較して、使用時に発生する煙がかなり少なくなる無煙火薬の登場です。

 煙が少ないうえに、燃えた時の力も大きく、燃えカスも残りにくいという無煙火薬の登場によって、発射される銃弾は高初速化し、また、煙に視界を遮られず、銃口内に溜まった火薬の燃えカスで弾詰まりも起こさず、短時間で弾を連続発射できるようになりました。


 また、初速が向上したため、柔らかい鉛がむき出しの既存の弾丸では、発射時に銃身との摩擦が大きすぎてライフリングで弾が削れたり変形したりいろいろ不都合が生じたため、弾丸を銅などの金属で覆う技術も生まれていきました。

 これは、いわゆるフルメタルジャケットへとつながっていく系統の技術で、そういうつながりが見えたり想像できたりするところが面白いです。


 ミリオタというのは比較的マイナーな趣味ではありますが、こういった、時代の変化をストーリーとして追っていく醍醐味があります。

 銃にしろ、大砲にしろ、飛行機にしろ、軍艦にしろ、お城の縄張りにしろ、鎧にしろ、戦術にしろ、なにがあって、どう考えられ、どんなふうになって行ったのかを追っていくと、1つの物語が生まれます。

 熊吉がミリオタをなかなかやめられない理由ですね。


 面白かった、参考になった、ためになったという読者様。

 大変、光栄に思います。

 そして、こんなのもう知っていたよという読者様。

 すみません。これからも熊吉なりに頑張って参りますので、何卒なにとぞ、お見捨てなきようにお願い申し上げます。


 どうぞ、熊吉と本作を、これからもよろしくお願い申し上げます。

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