エピローグ

最終話 僕の幼なじみは塩対応

 冬休みが終わり、今日から3学期が始まる。

 眠い目をこすりながら、家を出た。


「おはよう」


 門のところに双空が突っ立っていた。寒そうに手に白い息を吹きかけている。


「……寒いんだし、僕の家で待ってればよかったのに」

「だって、翔の家族がいるんだよ。バレずにエッチするつもりだけど、万が一があるでしょ?」

「僕のカノジョは朝からお盛んですね」

「ぷぅ……痴女なあたしも好きって言ったくせに」


 頬を膨らませるカノジョがかわいすぎる。


「痴女なら……おっぱい揉ませてくれるよね?」

「最低」


 吐き捨てるように言われた。


「双空さん、あいかわらずの塩対応ですね」

「すぐには直せないんだもん」


 唇を尖らせながらも、双空は手を僕の方に差し出してくる。


「はいはい、昔とちがって、僕がリードしますよ」


 僕は幼なじみの手を握ってから歩き始める。

 すぐに体が温かくなる。彼女の体温のせいなのか、コート越しでも感じる柔らかさのせいなのか?


 数分すると、人通りが増えてくる。

 大学生風のお姉さんがすれ違いざまに、「バカップル、爆発すればいいのに」とつぶやくのが聞こえた。


 他人からすれば、僕たちはバカップルかもしれない。

 けれど、僕たちから見れば、小学生時代に戻ったにすぎない。


「双空さん、僕たちバカップルじゃん。コートで隠すから、揉んでいいですか?」

「翔、そこにお巡りさんいるよ」


 温まった体温が一気に冷たくなった。

 先日までは塩対応と同時にデレも聞けたので、中和されていたのだが。


 あの一件以来、おっぱいの声は聞こえてこない。

 複数の声に混乱しなくて済むんだけど、寒くなったときに困る。


 やがて、学校が近づいてくる。


「知り合いに見られるかもだし、そろそろ離れないと」

「僕たち付き合ってるんだし、別にいいんじゃないの?」

「ムリ、ムリ、ムリ、ムリ」

「そんなに連呼しなくても」


 僕のカノジョは僕たちの関係を秘密にしておきたいようだ。


「そのかわり、別れのキスしてあげる❤」


 双空は目をこすりながら、顎を上に向ける。


(目にゴミが入ったシチュエーションかな?)


 僕は彼女に覆い被さるようにして、キスをした。


(たまたま唇が触れ合っただけだよ?)


 時間にして1秒にも満たない時間が尊くて、名残惜しくてたまらない。


 僕たちが交際を始めて、2週間弱。実は、キス以上の行為をしたことがない。

 胸を揉んだのは、痴女双空に対しての1回だけだ。


「しょうくん」

「そらちゃん」


 杏と蜜柑さんだ。


「ふたりとも朝から仲良いね」

「杏には迷惑をかけてすまんかった」


 クリスマスイブ。僕は双空を追いかけた後、杏が蜜柑さんのフォローをしてくれたらしい。


 呪いの影響で僕を誘惑し、双空を傷つけたわけで。

 落ち込んだ蜜柑さんを慰めたのが、杏である。


「ううん、ボクはいいんだけど」


 杏は蜜柑さんに心配そうな目を向ける。


「そらちゃん、ごめんなさい」

「蜜柑が謝る必要ない。あたしこそ――」

「そらちゃん気にしないで~私、熱に浮かされてたみたいで、今はなんともないから~」


 思えば、今回の一件で唯一被害に遭ったのは蜜柑さんである。


 乳神のせいで、僕にラキスケされ、僕のことを一時的にでも好きになり、双空との友情が壊れかけた。

 すべては乳神が、僕と双空を結ぶためにしたことである。


 当然、僕と双空が強情だったのが、すべての原因ではあるけれど。

 当て馬にするためだけに蜜柑さんを巻き込んだのは許せない。


(乳神め、今度会ったら、おっぱい揉んでやんねえとな)


 心の中で、迷惑な神を呪っていたら。


『ふん、交際2週間足らずで、ロリ巨乳とゲス不倫をするとはのう』


 急に乳神が現れた。あいかわらずのロリ巨乳だ。


『また、我が呪ってやろうか?』

「うるせえ、余計なことしたら、乳揉んでやるぞ」

「……翔、蜜柑の気持ちに配慮しなよ」


 うっかり口に出てしまったようだ。


「ちがうんだ」

「うるさい」


 双空は背伸びすると、僕の耳元に口を近づけ。


「蜜柑の爆乳もいいけど……あたしだってEカップなんだよ?」

「お、おう」

「あたしのを揉めばいいでしょ?」

「言ったな」

「……ごめん、ムリ」


 幼なじみは痴女になったと思えば、あっさり塩対応になって。

 僕のカノジョは不安定すぎる。


「うふふ、ふたりが仲良くて、私もスッキリしたわ~」


 蜜柑さんの笑顔は晴れやかで、僕も胸をなで下ろした。


『安心するがええ。蜜柑嬢には迷惑をかけたゆえ、我がメンタルフォローの祝福をかけておいた』


 メンタルフォローの祝福とは。神さまも現代化しているらしい。


『蜜柑嬢のおっぱいに幸せ物質を注入しといたからな。そなたへの想いは完全に消えておる』


 おっぱいでメンタルフォローだなんて、さすがです。

 褒めようと思ったら、乳神の姿は消えていた。神出鬼没な神だ。


「ところで、しょうくんは今年の目標はなにかな?」

「ぼ、僕?」


 双空と本音で語り合って、全肯定する。

 それが、今年の目標なのだが。


「双空を素直にさせることかな」

「悪かったわね」


 照れくさくて、誤魔化すと、彼女にも塩対応された。


 互いに素直になれなくて、遠回りして。

 僕たちは似たもの同士かもしれない。


 でも、一度は言葉にできたから。

 第一歩は踏み出せた。


 校門も見えている。周りには生徒が数多くいる。

 杏は声を落として、言う。


「しょうくん、ボクはね。いつか親に……女の子になりたいって言うつもり。今年中かわかんないし、反対されるだろうけど。自分を偽りたくないから」

「う、うん」

「ごめんね、いきなり重たい話をして」

「応援してるから」


 杏と僕たちは抱えているものはちがうけれど、気持ちは痛いほどわかる。


「杏、僕もかんばるよ」

「へっ?」


 僕は双空の方を向くと。


「双空、塩対応でも、痴女でもどっちでもいい。おまえのこと好きだし」


 周りを気にせず、堂々と気持ちを露わにする。


「翔、あたしも好き」


 風に乗って、僕たちの愛は拡散され。


「朝から告白かよ」「バカップルだな」「オレも巨乳のカノジョがほしい」

 周りに笑われてしまった。


「恥ずかしいけど、スッキリしたな」

「……羞恥プレイもいいかも」


 僕の幼なじみは小声でボソリとつぶやいた後。


「べ、べつに」


 真っ赤になって、僕から離れていく。

 塩対応の幼なじみは、ひたすらかわいい。


 ~完~

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僕にだけ塩対応の幼なじみ、おっぱいでデレてくる 白銀アクア @silvercup

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