第32話 とりあえず、おっぱい

「へぇ、あたしと塩双空両方を救うって?」

「ああ」

「そんなに3人でエッチしたいんだぁ」

「そうは言ってねえし」


 目の前にいる幼なじみはガチな痴女。とにかく、エッチをしようとしてくる。

 だからこそ、乳神に伝授された秘策を真正面から使えるわけで。むしろ、助かる。


「双空、とりあえず、おっぱい揉ませて」

「『とりあえずビール』のノリで、おっぱいを触ろうとするのね?」

「当たり前よ。男子にとって、おっぱいとビールは大好物だからね」

「翔、ビール飲んだことあるの?」

「もちろん、ないよ」

「ふーん、あたしも。大人になったら、ビールをキメて、キメセクしたいなあ」

「そりゃ、マズいだろ?」

「大丈夫。お酒以外に手は出すつもりもないし、相手は翔だけだから」


 どこから突っ込めばいいんだろう?


「翔、後ろの穴に突っ込むの?


 僕の心を読んだと思えば、エッチな方向に持って行く幼なじみ。

 唖然としていたら。


「翔、あたしを開発してくれるのね?」

「突っ込みの意味がちがうし⁉」


 とことん調子に乗ってくる。


「エッチより先にやることあるだろ?」

「とりあえず、前戯のおっぱいだもんね?」


 そういう意味じゃないんだが、利用させてもらう。


「ああ、だから、おっぱいを揉ませてくれ」

「いいよ」


 双空は僕が着せたコートの前をパタパタ。下着がちらついた。

 コートの下が下着って、完全に痴女である。さすが、痴女モード。


「揉みたいんでしょ。だったら、脱がして」

「寒くないか?」

「ううん、この部屋、暖房ないはずなのに、暖かいのよね」

「……そういえば、そうだな」


 乳神は結界を張ったと言っていた。もしかして、暖房効果があるのかもしれない。


「どうしたの? 早く脱がせなよ」

「あっ、ああ」


 双空の両肩に手を置く。つい、唾を飲み込んでしまう。


「手が震えてるよ。怖いなら、やめておく?」

「い、いや。気にしないでくれ」


 僕が緊張していて、双空は堂々としている。多くのケースでは男女が逆な気がする。


(これは双空を救うため)


 そう自分に言い聞かせる。


「じゃあ、いくぞ」

「うん、いいよ。翔、あたしの中に入ってきてぇぇ❤」


 双空の発言は無視して、コートをずり降ろしていく。胸の部分が引っかかり、先に彼女の手が抜ける。

 手が自由になった双空は自らの意思で、コートを脱ぎ捨てる。


「どう? あたしの勝負下着は?」


 黒レースの下着は艶っぽくて、大人の色香を放っている。後ろ髪が胸元に流れ、白銀と黒がコントラストになっていた。


「きれいだよ」

「今日のために、この下着を選んだのが、塩双空とはねえ。あの子、表向きにはエッチなことに興味ないフリして、ムッツリなんだからぁ」

「あっ、あの双空がねえ」


 おっぱいの声で本音がダダ漏れだったとは言わない。

 おぱ声の双空は痴女モードと似ているようでいて、異なる。自己肯定感が低かったし。


 そういえば、痴女モードになってから、おぱ声がまったく聞こえない。

 痴女双空は常に本音だから、不要ってこと?


「っていうか、塩双空は消える存在だった。あの子の話をしても、時間のムダだった。1分でも長く、翔とエッチしたいのにね。24時間耐久セックスしてみる?」

「童貞にハードなプレイを求めるなよ」

「大丈夫。あたしも処女だから」

「余計にムリじゃねえか⁉」


 経験があるから、ハードな耐久に挑戦できるんだ。お互いに未経験だとしたら、ある意味自殺行為である。


「んなことより、塩双空の話をしても時間のムダって言ったよな?」

「うん、あんなに素直じゃない子、あたしじゃないし。邪魔なだけ」

「取り消せよ」

「……怒ってるの?」

「ああ。僕は塩双空も好きだからな」

「ふーん。むかつくって言いたいところだけど、怒った翔もかわいいし、まあいっか」

「……」

「喧嘩した後の仲直りプレイも盛り上がるって聞くし」

「無視するなっての」


 僕は吐き捨てるように言う。


「それとも、翔?」

「なんだ?」

「痴女な双空は嫌い?」

「急に、どうしたんだ?」

「だって、翔が塩双空を好きっていうから。あたし、エッチじゃん。とにかく、エッチ方向に話を持っていくし」

「自覚あったんだ」

「あたしさぁ、エッチな絵を描いてるんだけど」


 やっぱ、双空はイラストを描いていた。


「双空は……らぶすかい先生なのか?」

「ご名答。パイオツ星人ウイングさん」


 推しがすぐ近くにいたんだ。感慨深くはあるが。


「おまえがらぶすかい先生だった件は、後で聞かせてもらう」

「うん、エッチの後にベッドで話すね」


 あいかわらずだった。


「たまにいるわけよ。『女性には性欲がない』『女性がエッチな絵を描くのは無理やりやらされている』とか言う奴が。女にも性欲はあるし、エッチな女の子を描きたいっての」

「いるいる、そういうの」

「こちとら、エッチが大好きなわけ。エッチがあたしのアイデンティティなの」

「お、おう」

「体を許すのは翔だけだから、安心して」


 痴女双空の言っていることも理解できる。


 彼女は自分の本音に従っているだけ。エッチな気持ちに正直に生きているのだ。

 それこそ、すがすがしいぐらいに。


 僕が塩双空を救うために、痴女双空を否定してしまったら……?


 かりに、塩双空が戻ってきたとしても、僕に好かれるためにエッチな自分を抑圧するかもしれない。

 そしたら、永遠に本音が出せないままだ。


(そんなの逆に不健全だよな)


 気持ちは自然と生じるもの。目を背けてはいけない。


 それに、僕は誓ったんだ。

 塩双空と、痴女双空どっちも救う、と。


「痴女双空。どんなにエロくても、僕が受け入れる」

「さすが、翔。あたしが好きになった男だ」

「だから、とにかく、おっぱいを揉ませてくれ」

「ホントに翔はおっぱいがちゅきなんでちゅね。ママのおっぱいでちゅよ」


 幸いにも痴女双空は自ら胸を僕に近づけてくる。


 好きな子の巨乳を楽しめる喜びと。

 尊すぎて、僕なんかが触れていいのかという畏れと。

 本当にこれで解決するのかという疑問と。


 さまざまな想いがない交ぜになったまま。

 僕は双丘の頂点を目指して、手を伸ばしていく。


 あと5センチ。

 3センチ。

 1センチ。


 指先が下着に触れようかというときだった――。


『翔、今まで、ごめんね。あたしが素直じゃなかったから、我慢させちゃって』


 僕の指先のあたりから声がした。

 間違いない、おっぱいが話している。

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