第7章 塩対応や痴女でも好きになってくれますか?

第31話 僕の幼なじみが変態すぎる

「着いたぞ」


 乳神が指さしたのは、例の神社にある蔵だった。


「こんなところに双空そらはいるのか?」

「我が神社をバカにするのはけしからんが、双空嬢に免じて特別に許してやろう」

「で、双空は?」

「がっつくでない。人避けの結界を張っておるゆえ、誰も近くには寄ってこないじゃろ。双空嬢がどんな状態でも周りを気にする必要ないぞ」

「そんな状態なのか」


 メンタル崩壊の危機とは聞いているが。

 到着するまでに覚悟は決めていたつもりだ。


 僕は自分の恋心を認め。

 双空がどれだけ僕を想って、乳神を生み出したのか知って。

 僕は自分のなすべきこと悟った。


「まあ、あいつが変なのは昔からだ。どんなヤバいことになっていても、受け入れてみせるけどな」

「よくいった。それでこそ、我が見込んだ男じゃ」

「なら、おっぱい揉ませて」

「……褒めたと思えば、神にセクハラしてくるとはのう」

「神に人間の法律は適用されないんだったら、実質揉み放題なんじゃね」

「なら、飽きるまで我が秘宝を堪能するがええ」


 乳神は和服の襟をパタパタする。ロリ巨乳の膨らみの上半分がチラチラ。


「ほれ、触ってみろ」

「……僕、ガキには興味ないし」

「ふん、口先だけの男め」

「悪かったな」

「むしろ、双空嬢を裏切り、我のパイオツに手を出す男なんぞ不要じゃ。そなたに一生胸を揉めない呪いをかけていたぞ」

「怖いんですけど」


 乳神は蔵の扉に手をかける。

 建物の中からはうなり声が聞こえてきた。


「じゃあ、邪魔者は去る」

「わかった」

「我が授けた秘策は覚えておるな」

「ああ。チャンスが来たら、ためらわずにやる」

「失敗したら、骨は拾ってやる」

「神の力でよろしく頼んだ」


 僕は気を引き締めると、蔵に進入する。


「双空、いるのか?……………………えっ?」


 言葉を失ってしまった。

 というのも。


 僕の幼なじみは雪が降るなか、暖房もなく。下着姿でいるからだった。

 しかも、壁には僕の写真が大量に貼られている。3歳ぐらいの裸で遊んでいるものもあれば、小学生時代へアヘ顔もあり、中学生の制服を着たものまである。


「翔、あたし、翔だけをずっと見てるんだからねぇ」


 背筋がゾクリとした。

 怖くて、回れ右をしようとする。そのときに、床がミシッと鳴った。


 双空がこっちを見る。琥珀色の瞳は血走っていた。


「あっ、翔。クソデカ乳女を捨てて、あたしのところに来てくれたんだね」


 クソデカ乳女って、もしかして、蜜柑さんのこと?


「よかったぁ。最愛の人と、親友を殺さなくてすんで」

「へっ?」


 ペロリと舌を舐める仕草は、病んでるとしか思えなかった。包丁を持っていてもおかしくない雰囲気だ。

 まさか、ヤンデレに目覚めた?


(そりゃ、乳神も大慌てで僕を探すよな)


 ヤンデレとなると、一歩間違えれば、即死である。対応には細心の注意を払わねば。


「そ、双空さん?」

「どうしたのかな、浮気者さん?」


 こうなったら。


「ぼ、僕。双空が一番だから」


 愛情表現をして、落ち着かせないと。


「僕はどこにもいかないから、安心していいんだよ」


 僕はコートを脱ぐと、双空の肩にかける。

 すると。


「やだなぁ」


 双空が僕の肩を叩いてきた。


「あたしが翔を殺すと思った。ヤンデレプレイをしただけなのに」

「へっ?」

「だって、せっかく翔と蜜柑が浮気したんだもん。プレイに利用しなかったら、意味ないじゃん」


 発言のぶっ飛び方が妙に懐かしい。小学生時代の彼女だったら、言いかねないからだ。

 と同時に、双空に冷静さが残っていて、安堵する。


「ツッコミどころ満載なんだが」

「翔、なにがかな?」

「まず、僕と蜜柑さんは浮気じゃない。そもそも、ふたりとも恋人いないし」

「じゃあ、ふたりはセフレなの?」

「ちがう」


 乳神に呪われたからとは言えない。


「ただのプレイだよ。双空に見せたら、喜ぶかなと思って」

「ふーん、ありがと。おかげで、寝取られ《NTR》を楽しめた…………あれ? あたし、NTRだけは苦手だったはずなのに」

「どうした?」

「ううん、あたし、エッチなことが大好きなんだよね?」

「僕に聞かれても困るんだけど」


 やっぱり、双空はおかしい。

 ヤンデレ化はしてなかったけれど、痴女のままだ。


「まあ、いいや。それより、裸コートどう?」

「エロい」


 丈的にはミニスカートをはいているぐらいだ。太ももに曲線にそそられる。


「翔も昔とちがって、ムッツリじゃなくなって、楽しすぎるんだけど」

「なあ、聞いていいか?」

「スリーサイズ? それとも、好きな体位?」


 茶化す仕草も昔と比べて、艶っぽい。


「ごめん。それは後で聞くとして、真面目な話なんだ」

「あれ? あたしにプロポーズするの?」


 話が進まないので、無視しよう。


「塩対応の双空はどこにいった?」

「…………だってぇ、邪魔なんだもん。今は痴女の双空ちゃんが体を支配してるの」

「……」

「だからぁ、翔、あたしとセックスしよ。ホワイトクリスマスだし、セックスするしかないっしょ」


 身を乗り出した双空が僕の首に手を回してくる。

 吐息が胸元を撫で、彼女の体温を感じる。


「ごめん、今のおまえとはできない」


 だって、今の双空はおっぱいの声が聞こえないから。

 塩対応をする彼女がどこにもいないから。

 僕にとっては、ぶっきらぼうな彼女も必要で。


「もう一度聞く。塩対応の双空はどこにいった?」

「あたし、あの女、完全否定してるのよね。だって、好きな男に冷たい態度を取って、ウジウジするなんて、バカすぎない?」


 僕は内心の苛立ちを隠す。感情的になったら、判断を間違える。


「質問を変える」

「なにかな?」

「おまえが塩対応の双空を完全否定したら、どうなる?」

「うーん、おバカちゃんは今はあたしの中で眠ってるよ。けど、そのうち消えるんじゃない。そしたら、あたしの天下だね。裸で街を歩いたり、翔と野外エッチしたり。やりたい放題できるね」


(メンタル崩壊って、そういう意味なのかよ⁉)


 女子高生が公然わいせつしたら、どんな処分になるんだろう?

 社会的に終わるかどうかも問題だけれど。


「おまえ、二重人格みたいなものか?」

「うーん、当たらずとも遠からず。とりま、塩双空と、痴女双空で区別していいよ」

「わかった」


 状況の把握はできた。

 ならば。


「塩双空と、痴女双空。どちらも僕が救ってみせる」


 僕は勢いよく言い放った。

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